いくつかのネットビジネスから出発し、途中ではFX事業やアメーバブログなどを手掛け、現時点では広告代理店、ゲームが2本柱である。そして、ここにきていよいよ10年間、年間200億円の投資を行ってきたABEMA中心のメディア事業の収益化が見えて来て、今後は急速に収益水準が上昇するものと考えられる。
過去においては、スマホ登場に合わせて、いち早く経営の方向をスマホにシフトさせ、ネット広告市場では圧倒的なシェアトップとなり、時価総額においてすでに広告代理店トップの電通の8,300億円に肉薄する7,500億円を達成している。
同社の最大の強みは、稼げるビジネスがあるうちに、将来の稼ぎの芽に大胆に投資することである。インターネット広告市場がまだ小さかった2000年代は投資育成事業、つまりベンチャーキャピタルとFX事業で稼ぎながら、当時は収益化出来る企業もいなかったブログ事業に大規模な投資を行った。そして、ブログにSNS機能を導入することで圧倒的なシェアを獲得し、収益化に成功した。
やがて、2010年代になるとアメーバブログとインターネット広告代理、ゲームが本格的に収益寄与し始めた。ちょうどそのころに、スマホ時代に突入すると、スマホビジネスを取り込むために徹底的な先行投資を行った。同時期にはかつては収益の柱であったFX事業は売却している。
また、ゲーム事業で大きな収益が出た2013年9月期にはその利益を丸々アメーバブログにおけるスマホユーザーの獲得に広告費を大量に投入した。
しかし、そうしながらもいよいよ本格的に儲かり始めたアメーバブログをある程度見切って、いまだ誰もやっていない無料の多チャンネルネットTVのABEMAに大胆に資金投入を始めている。
まさに、ようやく先行投資が実り始めて、一息つきたいのが人情だとは思うのではあるが、1分1秒も無駄にできないネットの世界の住人である同社は先へ、先へと手を打って来る。
図はこの25年間の営業利益推移である。2003年9月期までは赤字で、2000年代は最高でも50億円レベルであった。それが2010年代には300億円強の水準となり、2025年以降はいよいよ本格的な収益寄与期に入ってきたABEMAにより、500億円、600億円を一気に達成する可能性も見えてきた。
なお、図においてしばしば営業利益が突出して伸びた時期があるが、これはゲームのヒット時期に相当する。記憶に新しいのが2021年に爆発的にヒットした「ウマ娘」である。アイドルを競走馬に見た立てて、育成するゲームで、メガヒットとなって、一瞬ではあるが同社の営業利益をそれまでの3倍の水準の1,000億円超に引き上げた。
もっとも、ゲームのヒットはまさに一時的なものであり、一旦は元の水準に戻ってしまうが、一瞬とは言ってもそれだけ使える金が蓄えられるわけであるから、割り切ってしまえば、何も問題はなろう。
そして、いよいよ開始以来10年近くにわたって、赤字を計上し続けてきたABEMAが急速に収益化し始めた。2023年9月期にはワールドカップの放映権を推定100億円で獲得し、全戦無料で配信することでABEMAの知名度を一気に高めた。
その結果、直近のWAU(1週間の視聴者数)は3,000万人弱を達成するまでになっている。業績面ではABEMAの赤字の最大は2020年9月期の183億円であるが、その後ワールドカップの放映権を取得した2023年9月期は129億円の赤字が、2024年9月期には19億円の赤字と縮小し、2025年9月期上期には47億円の黒字転換を果たした。いよいよ、同社業績をABEMAがけん引する時代に突入したわけである。
これはものすごいことで、広告代理店がメディアを手に入れたわけであるから、すべて自分の思うままになるというものである。
有賀の眼
しばしば、上場企業では投資家を意識するために、利益を一時的でも減らすような大胆な先行投資がしにくいというような話を耳にする。そのため、自ら上場を廃止して、会社を根本的に変えるような投資に踏み切る会社もあるほどである。しかし、同社はあくまでも上場を維持した状態で、経営としての説明責任を果たしながら、投資家の理解を得ている。
その辺りが同社創業者の藤田晋の真骨頂であると言えよう。いよいよ、前代未聞のメディアを保有した広告代理店である同社のABEMAが収益拡大フェーズに入ってきたことで、向こう、5年、10年の同社業績の行方が楽しみである。