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社長業

第57回 子を易(か)えてこれを教(おし)う

繁栄への着眼点 牟田太陽

※本コラムは2024年3月の繁栄への着眼点を掲載したものです。

 親子の問題というのは昔から尽きることはない。それは家庭教育の場でも、経営の中でも同じだ。

 二千数百年前の公孫丑と孟子のやりとりだ。
 「昔の君子は自分の子を友人に預けたというが、それは何故でしょうか」と公孫丑は孟子に訊いた。

 「子が悪いことをすると、親は腹を立てて感情的になって叱る。そうすると子も感情的な叱りに反発して口答えをする。『口では立派なことを言いながら、やってることは全然違うではないか』と。

 それが続けばやがて言うことをきかなくなり、挙句の果てに親子の情愛が崩れてしまう。親子の離反ほど良くないものはない。だから昔は子を交換して教育をしてもらい、親子間では厳しく指示をしたり強制はしなかった」こう孟子は答えている。

 これは現代経営にも通じる言葉だ。

 親子というものは近いがために遠慮がない。「我が子だから」という理由で強制したりする親もいれば、「親の愛情」を散々受けたのにもかかわらず我が儘になる子もいる。だから、「学業を終えたら三年間は他人の釜の飯を食わせる」ということが行われている。

 親の目の行き届かないところで苦労を経験させる。会社に入っても同じだ。親は子を教えられないし、子は聞く耳を持たない。

 孟子は、「強制することは、親子間ではなく友人同士でやることだ」とも述べている。だから、同期、先輩、上司の存在が重要なのだ。間違ってはいけない。

 親から見たら、子はいつまでも変わらないように見えるものだ。あれこれ口出しもしたくなるだろう。それは自分も通ってきた道ではないだろうか。それが歴史だ。だから二千数百年前から相も変わらず同じことが言われている。

 立場的に親子の相談もよく受ける。

 「牟田 學会長は凄いですね。交代して全く口を出されないで」などと言われる。贅沢かもしれないが、何も言われなかったらそれはそれで不安にもなる。

 同じような社長が、「何故、何も言ってくれないのですか」と会長に訊いたことがあるそうだ。そうしたら、「お前が天才だったら何も言わなくても分かるだろうし、馬鹿だったら何を言っても無駄だからだ」と言われたそうだ。

 「太陽さん、牟田 學会長に『もう来るな』と言ったそうですね」などという根も葉もない噂を言われたこともある。事実無根だ。噂というのは怖いものだ。

 親子の情は全てを超えるものである。それを崩してはいけない。そして次の代にも変わらず情を引き継いでいただきたい。

※本コラムは2024年3月の繁栄への着眼点を掲載したものです。


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