新しい価値観をどんどん取り入れていくことができるのが若者たち。若者たちの中でも、トレンドを握り消費を動かすパワーを秘めた女性たちの《インサイト》に注目すると、新しいヒットを創るヒントが見えてくる!
※本コラムは2020年7月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。
●次のヒットを創るヒントは若者のインサイト
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で不安な日々が続きますが、世界中で規制の緩和も始まりつつあります。これからは新型コロナウイルスと共に生きる「withコロナ」状態がしばらく続くでしょう。
コロナ禍は、女性たちの生活様式や価値観にも大きな変化をもたらしました。感染流行が収束した後も、この経験で新しく芽生えた新しい価値観や行動は残り続けていきます。
コロナ禍の中でも、「消費」は動きつづけ、新たな消費トレンドが生まれています。消費を刺激するためには新たに芽生えた生活者の「インサイト」を理解することが重要です。
今回、注目したい消費者インサイトは以下の2つです。
①消費は抑えたいけど、家ナカの環境は充実させたい。
②時短美容から、時間や手間をかける美容へシフトしたい。
インサイトを一つずつチェックしていく前に、まずコロナ禍の影響で世の中に新たに生まれている消費トレンドについてみていきたいと思います。
●新たに生まれた消費需要〝巣ごもり消費〟
コロナ禍の影響による消費マインドの停滞が指摘されますが、その一方で新たな消費トレンドとして〝巣ごもり消費〟が脚光を浴びています。〝巣ごもり消費〟は、〝家ナカ消費〟とも呼ばれ、ネット通販やケータリングなどを活用しながら家の中で楽しむ消費傾向のことです。
2008年のリーマン・ショック以降拡がったと言われており、自然災害などが起きるたびに注目を浴びてきた言葉ですが、「withコロナ」の世界では多くの時間を家で過ごす生活様式がこれからも長期化しそうであることから市場が活性化しており、再び注目を集めています。
〝巣ごもり消費〟でみられる需要には、「従来は家の外で行っていた消費をそのまま家の中に置き換える代替需要」と、「全く新しい需要」との2つの動向が見られます。
前者は例えば、家の外で使わなくなった分、家の中での消費量が増えたトイレットペーパーをはじめとした日用品や食料品、外食をしなくなった代わりとしての持ち帰りの総菜やコンビニ弁当といった中食、他に外に出かけなくなった代わりとしての書籍や有料動画配信サービスなどの自宅で楽しむエンタメにも消費意欲が高まっています。
注目したいのは、より消費金額の大きな後者の「全く新しい需要」です。
●住環境のためなら、お金も時間も投資したい
「全く新しい需要」の中でも注目したい1つ目が、冒頭の①「消費は抑えたいけど、家ナカの環境は充実させたい」というインサイトから生まれる需要です。家で過ごす時間が長いからこそ、家を居心地の良い空間をつくりたいという意識が高まっています。
経済の先行きが不安な今、消費を出来るだけおさえて節約をしたい気持ちは当然高まっており、家の外で着飾るための高級なファッションは欲しくなくなったという意識の変化も見られています。でも、そんな中でも「住環境」にはお金も時間も手間も糸目をつけず投資したいというインサイトは見逃せません。
実際に、家具のEC市場は好調に伸長。在宅時間が長くなったことをきっかけに断捨離と家の整理整頓に没頭する人が後を絶たず、在宅勤務環境を整えるためのスタンディングデスク(立ちながら作業できる高さの机)や椅子などに注文が殺到し、手に入りにくい状況も生んでいます。
これまで新生活スタートの季節には、インターネット通信を工事不要ですぐに使えるWifiルーターサービスや、携帯電話のデザリングなどで簡易的に済ませる人が増えていましたが、「withコロナ」の世界では時間と手間をかけてでも光回線の工事をして通信環境を安定させたいという意識に変わっていきました。
アパレル業界が不調の中でも、オンライン飲み会に映えるという理由でルームウエアブランドの人気も再熱しています。
昇降式スタンディングデスク。北欧では90%の企業が取り入れているもの。肩こり腰痛が軽減しただけでなく、集中力もUPしたとのこと。
「五感」を満たす商品やサービスも再評価され始めています。その理由は、これまで外に出れば容易に受け取ることができたけれど、オンラインや簡易的なデリバリーサービスでは五感の刺激が乏しくなってしまったことにより、豊かに五感を満たす住環境がより求められるようになったということが考えられます。
例えば音環境を良くするホームシアターシステムや、香りを楽しむための入浴剤、高級レストランの持ち帰りメニューなどが好調です。
●本当は時間をかけてケアしたかった
注目したい「全く新しい需要」の②は「時短美容から、時間や手間をかける美容へシフトしたい」というインサイトから生まれる需要です。
これまでは時間のない女性のために時短でメイクや美容のお手入れができる商品やサービスが人気を博していました。自宅での時間が長くなるに伴って、時間と手間をかけて丁寧に時間をかけることに喜びを感じる気持ちが高まっています。
この流れは、時間をかけずにいつもと同じルーティンメイクで済ませるよりも、時間を使ってでも新しいメイクに挑戦をしてみたいというチャレンジの後押しにもなっています。
人気YouTuberの「整形メイクのみゆ」さんが今年投稿した石原さとみ風になれるメイクの方法を教えるYouTube動画は話題となり、470万回再生されました。
セルフカラーやセルフカット、セルフまつげパーマなど、これまで外で受けていたプロのサービスを自宅でできるようにするサービスも好調です。自宅で出来るパーソナライズヘアカラーの定期通販サービス「COLORIS(カラリス)」が売上も大きく伸長させたことも注目を集めています。
もちろん、これからも仕事を続けていきたい女性たちにとって「時短」は重要なキーワードです。ただ、時短できるものは時短し、時間をかけなければできないことは時間をかけてでもやりたいという気持ちがこのインサイトを掴むためのポイントです。
ダイエットを完全リモートで指導してもらえるサービスとして順調に利用者数を伸ばしているオンライン食事指導『Tabegram』の使われ方を例に挙げると、自炊でダイエット食を作ったり買いそろえることには時間をかけるけれど、食事指導のやり取りは時短で簡単にすませたいというインサイトを突いています。
登録も個人情報の入力などの煩雑なステップを省いており、LINEで友達登録するだけでサービスを開始できるという手軽さも新進気鋭のサービスならではの工夫だと思いました。
https://tabegram.net/
写真:オンライン食事指導サービスTabegram
●終わりに
今回のインサイトを使って、売れる商品を創るためのポイントは2つです。
①消費は抑えたいけど、家ナカの環境は充実させたいからこそ、投資したくなる住環境を提案する。
②時短美容から、時間や手間をかける美容へシフトしたいからこそ、時間をかけなければできない美容を提案する。
新しい時代のインサイトに注目し、潜在的なニーズに応えられる商品を創ると、ヒットが生み出せます。ぜひ、この最新のインサイトを活かしてみてください!
阿佐見綾香(あさみあやか)
電通ギャルラボ研究員。若年女子研究を専門とする。 ストラテジック・プランナーとして、企業や商品・サービスのマーケティングや商品開発、リサーチ、企画プランニング、コミュニケーション戦略立案などを担当。 電通ダイバーシティ・ラボ研究員としても、マーケティングの最新トピックであるLGBTに取り組み、みんなが楽しく暮らせるダイバーシティ社会の形成を目指す。
※本コラムは2020年7月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。