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「好き嫌い」の復権~『最強のリーダーは人を癒すヒーラーである』に学ぶ②

楠木建の「経営知になる考え方」

仕事にこそ「好き嫌い」を持ち込め

 前回の「癒し手としてのリーダー」の話の続き。ニコラス・ヤンニ『最強のリーダーは人を癒すヒーラーである』の議論の出発点には、現在の企業文化は行動(doing)モードに支配され、存在(being)モードが希薄になっているという課題認識がある。存在モードを回復するのが「癒し手としてのリーダー」だ。

 ヤンニの議論は組織における「好き嫌い」の復権を示唆している。このことがとりわけ僕にとっては興味深い。

 好き嫌いとは「良し悪し」では割り切れないものの総称である。良し悪しでないものが好き嫌い、好き嫌いでないものが良し悪し、ということだ。

 「仕事に好き嫌いを持ち込むな」「好き嫌いで食っていけるほど世の中は甘くない」「好きなことは趣味でやれ」――こうした図式が定着している。しかし実際は逆、仕事こそ好き嫌いがものを言うというのが僕の考えだ。

AIに代替されてしまう「才能」とは

 ゼロから他の人にはできないようなプラスを創る。そのことにおいて「余人をもって代えがたい」とか「この人にはちょっと敵わない……」と思わせる。これを「才能」という。

 才能は特定分野のスキルを超えたところにある。あれができる、これができると言われているうちはまだ本物ではない。

 「データ分析に優れている」であれば、その種のスキルを持っている人を連れてくれば事足りる。つまり、「余人をもって代え」られる。そのうちAIに代替されるかもしれない。

努力を継続することが難しい理由

 才能は一朝一夕には手に入らない。習得するための定型的な方法も教科書も飛び道具もない。だからといって、ごく一部の天才を別にすれば、「天賦の才」というわけでもない。

 あっさり言ってしまえば、「普通の人」にとって、才能は努力の賜物である。

 余人をもって代えがたいほどそのことに優れているのは、それに向かって絶え間なく努力を投入し、試行錯誤を重ねてきたからに他ならない。当然にして当たり前の話だ。

 しかし努力を継続することは難しい。

 その理由は、努力がインセンティブを必要とすることにある。

 インセンティブとは「誘因」。文字通り、ある方向へとその人を誘うものだ。それはしばしば外在的に設定された報酬という形をとる。

 インセンティブがあれば人は努力する。しかし、裏を返せば、インセンティブが効かないと努力もしなくなってしまう。ここに問題がある。

「努力の娯楽化」

 遅かれ早かれ、インセンティブには終わりが来る。

 資源が限られている以上、単調増加的に給料を増やし続けることはできない。昇進のご褒美を与え続けるわけにもいかない。

 毎度毎度褒められていれば、そのうちそれが当たり前になってしまう。インセンティブの効果は時間とともに低減していく。

 インセンティブには即効性がある。しかし、すぐに役立つものほどすぐに役立たなくなる。どうすれば普通の人々が高水準の努力を持続できるのか。ここに問題の焦点がある。

 ポイントは、それが「努力」かどうかは当事者の主観的認識の問題だということだ。

 だとしたら、「本人がそれを努力だとは思っていない」、この状態に持ち込むしかない。すなわち「努力の娯楽化」。

 客観的に見れば大変な努力投入を続けている。しかし当の本人はそれが理屈抜きに好きなので、主観的にはまったく努力だとは思っていない。これが最強の状態だ。

 インセンティブは必要ない。「好き」は自分の中から自然と湧き上がってくるドライブ(動因)だ。

「好きこそものの上手なれ」をテコにした組織運営

 そのうちに人より上手くなる。上手くなると成果が出る。人に必要とされ、人の役に立つことが実感できる。すると、ますますそれが好きになる。

 時間を忘れるほどのめり込める。時間だけでなく、我を忘れる。人に認められたいという欲が後退し、仕事そのものに没入する。ますます上手くなる。さらに成果が出る――以上の連鎖を短縮すると「好きこそものの上手なれ」という古来の格言になる。

 従来のマネジメントは良し悪しという基準――たとえば「スキルがある・ない」とか、特定の仕事が「できる・できない」――に立脚していた。すなわちヤンニの言う行動モードだ。

 これに対して、個人の感覚に埋め込まれた好き嫌いは存在モードにかかわっている。これまでのリーダーシップの言語や文法では、個人の好き嫌いをうまく扱うことができなかった。

 これに対して、個々人の自己を受け入れ、引き出そうとする癒し手としてのリーダーであれば、それぞれの好き嫌いに注意を傾け、くみ取ることができる。

 「好きこそものの上手なれ」のメカニズムを梃子にした組織運営が可能になる。ここに癒しのリーダーシップが組織のパフォーマンスを高める論理の中核がある。

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