menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

万物流転する世を生き抜く(25) ボロジノ大会戦でのナポレオンの逡巡

指導者たる者かくあるべし

 ナポレオン軍に攻め込まれたロシア軍は、退却しながら、徹底した焦土作戦をとった。
 
 ナポレオン軍が拙い地図を頼りに進んだが、どの町も村も家々は食糧もろとも焼き尽くされている。兵士たちが一夜の宿りをとる屋根ひとつ残されていなかった。
 
 兵士も軍馬も消耗を続ける。
 
 かたやロシア軍も、一方的な退却戦は士気を削ぎ、不満が高まった。「それでもロシアの男か」。将軍たちの間に拡がる不協和音を見て取った皇帝アレクサンドルは、総司令官のバルクライを更迭し立て直しを図る。
 
 総司令官についたクツーゾフは、退却しながらも、騎馬に長けたコサック兵によるゲリラ戦で侵攻軍の疲労を誘った。そして敵が疲労の極に達したと見て決戦を決意する。
 
 クツーゾフは、モスクワの西120キロにあるボロジノの町の郊外の平原に堅固な堡塁を築き10万6千の兵を展開して待ち受ける。9月7日、ロシア国境を越えて二か月半が経過していた。
 
 国境のニエーメン河を越えたときに7500頭いた荷馬は1000頭にまで激減していた。
 
 ナポレオンは、こちらも12万を越える兵に向けて、「ついに待ち望んだ合戦だ。勝利は諸君の双肩にかかっている。勝利の暁には、潤沢な補給品、早期の祖国帰還が待っている」と宣言した。
 
 希望のみが疲労した兵士を奮い立たせる。
 
 軍勢は両軍合わせて23万、未曾有の大会戦である。堡塁の争奪をめぐって突撃を繰り返す両軍は、耳をつんざく砲声の中で累々と屍をさらした。
 
 戦い半ば、前線の将軍たちから後方のナポレオンに伝令が駆けつける。
 
 「陛下、いまこそ近衛軍を動かして下さい」。本陣周辺には、精鋭2万の予備軍が無傷で待機していた。互角の戦況で、敵にはもはや予備の兵力はない。
 
 ここで近衛軍を投入していれば。この戦役を通じてロシア軍を壊滅する唯一のチャンスであった。
 
 「ノン!」とナポレオンは要請をはねつけた。「モスクワでの最終決戦を前に虎の子の予備兵をむざむざ犠牲にするわけにはいかない。予備兵がなくてもこの戦いは勝てる」
 
 前線のネイ元帥は、回答を聞いて叫んだ。
 
 「そんな馬鹿な。皇帝は後ろにいて何をしているんだ。戦局も読めない彼はもう将軍じゃない。皇帝だ。パリの宮廷へお帰り願おう」
 
 「勝機に全軍投入」の原則は、軍に限らず、組織経営の要諦である。この一瞬の誤判が悲劇の始まりとなった。
                                           (この項、次回に続く)
 
 ※参考文献
 
『ナポレオン上・下』エミール・ルートヴィヒ著 北澤真木訳 講談社学術文庫
『ナポレオン自伝』アンドレ・マルロー編 小宮正弘訳 朝日新聞社
『ナポレオン一八一二年』ナイジェル・ニコルソン著 白須英子訳 中公文庫
『ナポレオン―ロシア大遠征軍潰走の記』アルマン・オーギュスタン・コレンクール著
                    小宮正弘訳 時事通信社
 
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万物流転する世を生き抜く(24) 長征と兵站の誤算前のページ

万物流転する世を生き抜く(26) 常勝将軍の焦りと脆さ次のページ

関連記事

  1. 挑戦の決断(9)作戦目的の不徹底(ミッドウエー海戦時の日本軍)

  2. 挑戦の決断(10) 所得倍増(池田勇人)

  3. 挑戦の決断(8) 時代の変革期に先手を取る(足利尊氏)

最新の経営コラム

  1. 第121回 騒音を低減して、仕事も学習も効率アップ!

  2. 第20回 新事業は社長の情熱が成功を決める

  3. 第183話 ボタンを掛け違えたM&A

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 戦略・戦術

    第46回 「今、良い企業は何に力を入れているのか?」
  2. 新技術・商品

    第3話 うまいところを突いてきた
  3. マネジメント

    決断と実行(5) 「夢の超特急」を走らせた執念
  4. マネジメント

    第五十二話 「情報を共有しろ」(ベストエバージャパン)
  5. 製造業

    第303号 モノの捨て方で経営を改善したB社の事例
keyboard_arrow_up