今年は明るい話題がめっきり少ない中、
多くの人々を歓喜させ、元気づけてきたのが
米大リーグでの”二刀流”大谷翔平選手の大活躍。
二刀流という言葉が毎日のように語られる中、
“元祖二刀流”宮本武蔵の名が挙げられる機会が増加した感があります。
さらに東京五輪が開催されたことから、五輪の名がついた武蔵の『五輪書』への注目度も上昇。『五輪書』は武道家やスポーツ選手はもちろん、ビジネスマンにも幅広く読まれ、
座右の書と語る経営者・リーダーも多くいる一方で、「名前は知っているが、実は読んだことがない」という人も多くいます。
そこで今回ぜひ紹介したいのが、
『真訳 五輪書』(著:アレキサンダー・ベネット)
です。
著者は、『五輪書』の英訳本も手掛けた、関西大学教授のアレキサンダー・ベネット氏。
ニュージーランド出身ながら、剣道7段を始め、合計30段以上の有段者という、
現役の武道家でもあります。
そんなベネット氏が、新訳でも超訳でもなく、”真訳”として、
現代語訳と解説を通じて、武蔵の真意に真剣に迫る!
長く日本文化に接する中で、いわば”外の目”、”内の目”を持つ二刀流的な視点から
綴られていて、興味深いこと、この上なし。
これまで出版されてきた『五輪書』、及び関連本とは大きく異なる、
本書の最大の魅力と言えます。
また、現代語訳もグローバル時代を意識して、今風のカタカナ交じりのものになっており、
通常のビジネス書を読む感覚で楽しめるところにも、好感が持てます。
「地・水・火・風・空」の5つの巻から成る『五輪書』ですが、
経営者・リーダーに特に必読なのが、地の巻。
というのも、9つのルールを始め、兵法についての武蔵の見解が、具体的に書かれていること。
大工を事例として説明していくところは、まさにマネジメントそのものであり、
実に示唆に富んだものになっています。
「面白いことに、武蔵は武士とそれ以外の者をほとんど区別していない。それぞれの職業に、堂々たる”道”がある」とベネット氏。
さらに、「武蔵の法則はSWOT分析を思い起こさせる」との観点から、ビジネス的アプローチから解説していく他、SNSのこと、スティーブ・ジョブズのことなど、現代と『五輪書』を対比させて次々に紐解いていく。
私は、これまで何度も『五輪書』を読んできましたが、
今回、新たな知見を得た感があります。
いや、まだまだ何も分かっていなかった、とすら思えてきます。
混迷の時代を生きた武蔵と、今の時代はどこか重なる部分もあり、
今読むことで得られるものが多くある!
組織や部下の育成、さらには、自らに喝を入れるべく、
すぐさま読んでいただきたい一冊です。
尚、本書を読む際に、おすすめの音楽は
『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)≪クラシック・マスターズ≫』(演奏:パブロ・カザルス)
J.S. バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲 (2CD)/amazonへ
です。
チェロの歴史的巨匠で、指揮者としても活躍したカザルスによる入魂の傑作。
以前から、カザルスの姿、及び奏でる音に、どこかサムライに通じる部分を感じています。
地であり、水であり、火であり、風であり、空であるような、この演奏、
本書と合せてお楽しみいただければ幸いです。
では、また次回。