menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

万物流転する世を生き抜く(49) 歴史は必然「if(もしも)」はない

指導者たる者かくあるべし

 石田三成にも勝機はあった、というのはよく耳にする関ヶ原合戦論である。
 
 一つは、「もし三成が関ヶ原に移動せず大垣城に籠城していれば」というのがある。
 
 今少し我慢し、大坂城から毛利輝元が秀吉の遺児・秀頼とともに大垣城に姿を見せたとしたら、東軍主力の秀吉恩顧の将たちは精神的に動揺し、総崩れとなったであろうというものだ。
 
 しかし現実には、三成の出陣要請にもかかわらず、輝元は大坂を動かなかった。「大坂にクーデターの動きあり」というのが、輝元が三成に伝えた出陣拒否の理由であった。
 
 確証はないが、家康の吉川広家を通じた毛利籠絡の工作を見れば、輝元は領土安堵の約束を信じて観望を決め込んだ可能性が高い。
 
 次に、関ヶ原に出陣していた毛利方の軍勢が動けば、家康は敗れていたとの分析もある。輝元の従弟の毛利秀元は、家康の本陣の背後の南宮山に布陣していた。1万5千の大軍である。動けば東軍を挟撃で きる位置にある。その麓には吉川広家と安国寺恵瓊が陣を構えている。
 
 戦闘開始から二時間。西軍正面の宇喜多秀家勢が家康本陣突撃を目指して奮戦しているのを見て、「勝てる」と見た三成は、打ち合わせ通り狼煙を上げて、南宮山の毛利勢に参戦を促した。
 
 「今が勝機ですぞ」。安国寺恵瓊は山上の毛利本陣に督促したが、吉川広家が、「まだ戦機にあらず、抜け駆けは許さん」とこれを止めた。ここでも家康の工作は効果を発揮したことになる。
 
 小早川秀秋も内応の約束通り、西軍に襲いかかる。夕刻、勝敗は決し三成は北国街道を落ち延び、やがて捕らえられた。毛利勢合わせて2万は、一戦も交えることなく、戦場を離脱する。
 
 三成が勝つための「if(もしも)」の条件は、開戦前にことごとく家康に消されていた。
 
 打てる手をすべて打って決戦に赴いた家康。あやふやな可能性にかけた三成。家康の勝利は、戦う前に決していた「必然」だった。
 
 「歴史にif はない」とはこのことをいう。
 
 戦後、毛利はどう遇されたか。家康は、西軍総大将の責任を問い領地を大きく削減。120万石の大大名を長門・周防(29万8千石)に押し込めた。家康はこの非情さをもって天下を治めることとなるのである。
 
 
 ※参考文献
 
『関ヶ原の役 日本の戦史』旧陸軍参謀本部編纂 徳間書店
『関原軍記大成』宮川尚古著 国立国会図書館デジタルライブラリー
『関ヶ原合戦 家康の戦略と幕藩体制』笠谷和比古著 講談社学術文庫
『大いなる謎 関ヶ原合戦』近藤龍春著 PHP文庫
『関ヶ原・敗者たちの勝算と誤算』武光誠著  PHP文庫
『勝つ武将 負ける武将』土門周平著 新人物文庫
 
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万物流転する世を生き抜く(48) 将を射んと欲すれば先ずその馬を射よ前のページ

交渉力を備えよ(1) 勝海舟が選んだ交渉相手次のページ

関連記事

  1. 組織を動かす力(6)個人が主張できる環境

  2. 中国史に学ぶ(3) 天下取りに必要なのは我慢と策謀

  3. 挑戦の決断(32) 売れ筋を生み出せ(都市国家ヴェネツィアⅡ)

最新の経営コラム

  1. 楠木建が商売の原理原則を学んだ「全身商売人」ユニクロ柳井正氏

  2. 第10講 WILLとMUSTをCANに変える:配属に不満がある社員とどう関わるか

  3. 第147回『紫式部と藤原道長』(著:倉本一宏)

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 経済・株式・資産

    第69話 共感を呼ぶAIIB構想力
  2. 教養

    2014年5月号
  3. 税務・会計

    第63回 2024年1月から電子取引データの保存義務化が始まります
  4. 税務・会計

    第2回 事業に関係のない投資や資産がなく、身ぎれいな決算書になっている会社
  5. 社員教育・営業

    第8話 「不況を乗り越えるパラドックス的発想」
keyboard_arrow_up