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ナンバー2の心得(9) 後藤田五訓

指導者たる者かくあるべし

 中曽根康弘内閣時代の1986年(昭和61年)7月1日、内閣官房を再編して内閣五室(内政審議室、外政審議室、安全保障室、情報調査室、広報官室)が設けられた。

 縦割り行政の弊害を排して、内外の緊急事態に即応することが目的だった。

 その発足式で、官房長官の後藤田正晴は、各省庁からの出向組を前に、有名な訓示を行い、勤務の心構えを説いた。

 「後藤田五訓」という。要点はこうだ。

  (1) 省益を忘れ、国益を思え「自分の出身省庁の省益を図るな。聞けないものは即刻、更迭する」

  (2) 都合の悪いことでも本当のことを報告せよ「私が聞きたくないような悪い情報でも報告せよ」

  (3) 勇気をもって意見具申しろ「『こういうことが起きました。総理、官房長官、どうしましょう』などと言うな。『私が総理、官房長官ならこうします』と具体的に進言しろ」

  (4) 自分の仕事ではないと言うなかれ「オレの仕事だ、オレの仕事だと言って争い、お互いにカバーしあえ」

  (5) 決定が下ったら従い、命令は実行せよ「大いに意見は言え。ただし、いったん命令が下ったらとやかく言うな。そしてワシがやれと言うたら、今すぐやれと言うとるんじゃ、ええか」

 役人が陥りがちな欠点を挙げて機先を制したのだ。役人組織ばかりではない、民間企業においても、部局横断的なタスクフォースを立ち上げたときに、組織ばかりができても機能不全にはまる愚は経験したことがあるに違いない。諸悪の根源は、民間企業にもはびこる〝官僚主義〟そのものだ。その脱出方法をわかりやすく網羅して後藤田は警告している。

 近ごろ、ワイドショーを騒がすアメフト問題で、日大の対応がなぜ後手後手に回って紛糾しているかが、五訓と照らし合わせれば腑に落ちるだろう。

 組織ばかりがあっても、危機対応は機能しない。原籍組織への配慮、事なかれ主義、手柄は自分のものに失点は他人の責任に、では危機に際して組織は動かない。

 要は組織を運営する人と、その心構えにかかっている。

 後藤田に「五訓」を言わしめたもの、それは、長い役人生活と、総理補佐役トップの官房長官就任後に降りかかった数々の危機管理の試練だった。

 (この項、次回に続く)

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『情と理 カミソリ後藤田回顧録(下)』後藤田正晴、御厨貴監修 講談社α文庫
『重大事件に学ぶ「危機管理」』佐々淳行著 文春文庫
『政治とは何か』後藤田正晴著 講談社

 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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