1月上旬、筆者は北京で胡鞍鋼・清華大学教授をはじめ中国の専門家たちとトランプ政権下の米中関係の行方について意見交換を行った。議論した結果、次の3つの判断材料がトランプ政権の対中政策及び米中関係の行方を占う上では極めて重要という見方に集約できた。
◆「戦略・経済対話」 継続か廃止か
第一に、トランプ政権が米中戦略・経済対話を継続するか、それとも廃止するか?
米中戦略・経済対話は米中間のハイレベルの対話ツールであり、2006年にブッシュ大統領(息子)が提案し、胡錦濤国家主席の賛同を得て発足。2009年米国は共和党政権から民主党政権に代わったが、オバマ政権に引き継がれた。過去10年間、米中戦略・経済対話は、両国の閣僚らが定期的に安全保障や経済の課題を協議することを通じ、時に対立する両国関係を安定化させる役割を果たしてきた。
トランプ政権はこの米中戦略・経済対話をどう扱うかが米中関係の行方を大きく左右する。廃止すれば米中関係は大きく後退し、継続なら関係悪化に歯止めがかかることが期待される。
◆「貿易戦争」 仕掛けるか相互妥協か
第二に、トランプ政権が中国に{貿易戦争}を仕掛けるか、それとも相互妥協するか?
選挙期間中、トランプ氏は大統領就任初日に、中国を「為替操作国」を指定し、中国からの輸入製品に45%の関税を課すと公言した。しかし実際、トランプ氏が正式に大統領に就任して一週間経ち、「TPPに永久離脱」や「NAFTA再交渉」などの大統領令に署名したが、中国を標的とする大統領令がなかった。「為替操作国」指定は速くても今年4月になるのではないかと一般的に思われる。
仮にトランプ政権が本気で中国を「為替操作国」を指定し、中国からの輸入製品に45%の関税を課す場合、中国側の報復措置発動が避けられず米中貿易戦争が勃発する。
米中貿易について、中国側は膨大な対米貿易黒字を持ち、2011年以降、6年連続で2,000億ドルを突破し、15年は史上最多の2,609億ドルにのぼる。米中貿易戦争が勃発すれば、中国側の損失が米国より大きい。しかし、米国側も決して無傷で済まない。2015年、金額ベースの米国対中輸出上位4種目は飛行機、大豆、自動車、集積回路である。そのうち、大豆と旅客機の対中輸出はそれぞれ輸出全体の56%、26%を占める。中国商務省の専門家の話によれば、同省はトランプ政権の対中制裁を想定し、米国製品逆制裁リストを作成した。上記4種目が全部入っているという。
特に、自動車分野の対米制裁は米国側の痛みが大きい。現在、中国の新車販売台数は世界最大規模で、2016年2,802万台にのぼり、米国より1,047万台多い。米国自動車メーカーは中国市場から莫大な利益を得ている。2015年GMの連結利益97億ドルの約20%、フォードの経常利益94億ドルの約16%が中国市場による貢献である。乗用車だけで、2016年米系車の中国販売台数は296万台にのぼり、中国市場全体の12.2%を占める(下図を参照)。仮に米中制裁合戦が発生すれば、GMやフォード自動車は制裁の標的になるに違いない。
出所)中国汽車工業協会により沈才彬が作成。
結果的には、貿易戦争によって米中は共倒れになり、トランプ氏が掲げる「4%成長、3,500万人雇用増」の目標も遠ざかりかねない。ビジネスマン出身で損得勘定が得意なトランプ氏は、自損して中国に貿易戦争を仕掛けるとはとうてい考えにくい。最終的には、交渉によって中国側のある程度の譲歩を引き出し、相互妥協で貿易戦争を回避するしか道がない。
◆「1つの中国」 放棄か堅持か
第三に、トランプ政権が「1つの中国」政策を放棄し、台湾独立を支持するかどうか?
トランプ氏は「『1つの中国』に縛られずに貿易赤字削減に向けた交渉に入る」と主張するが、中国政府は台湾問題を中国の「核心利益」と位置づけ、この問題で譲歩する余地はない。トランプ政権が「1つの中国」政策を放棄し、台湾独立を支持すれば、中国は米国との全面対決も辞さず、武力による台湾統合を断行するだろう。そのタイミングとしては2020年が有力と見られる。一方、トランプ政権が「1つの中国」政策を堅持すれば、中国は貿易問題である程度の譲歩もあり得る。
結論から言えば、トランプ氏に政策あれば習近平氏に対策あり。米中関係の行方はトランプ政権の出方次第で、それを見極めるには少し時間がかかる。