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故事成語に学ぶ(30) 辺幅を飾ること偶人の形のごとし

指導者たる者かくあるべし

英傑の才を見抜いた男
 中国の史書でいうと、『史記』と『三国志』の間の時代を描いた『後漢書』の時代は、人気がない。というか二つの名著の狭間にあって、あまり読む機会もない。しかし、范曄(はんよう)が編述したこの史書もなかなかに面白い。

 時は、前漢の帝室を簒奪した王莽(おうもう)を光武帝が倒し、後漢王朝を建てたころ。光武帝の天下取りに付き従い殊勲をあげ続けた馬援(ばえん)という武将がいた。最初は謀反人の王莽に取り立てられたが、王莽が殺され混沌とする世情の中で隴西(ろうせい)地方の軍閥の親分の庇護下に引きこもった。天下の情勢は、漢王室を継いだとする光武帝と、蜀を拠点に帝王を名乗る公孫述(こうそんじゅつ)の勢力争いとなっていた。
 そこで、馬援は、二人の皇帝候補と直接面談し、光武帝に英傑の才を見出したのだ。

  

 本物の指導者は表面を飾ったりしない
 馬援が寄宿した軍閥が陣取る隴西地方は、都の洛陽と蜀の地の間にあって、親分としては光武帝と公孫述のどちらにつくか、決断に迫られていた。親分は、馬援が公孫述と同郷で、顔見知りだと聞いて、「どんな男か見てきてくれ」と馬援に人物評価を託す。
 「一杯やりながら、一晩語り明かそうか」と出かけた馬援だったが、蜀の都につくと、儀仗兵がずらりと並び、応接も型通りでまったく隙がない。
 戻った馬援は、親分に報告する。
 「天下の勝負も決まっていないのに、公孫述は、国士を迎えて相談しようという気がない。逆に表面の形式だけ飾り立て、飾り物の人形のようだ(辺幅を飾ること偶人のごとし)。井の中の蛙です。こんな男に天下の人材を引き止めるだけの器量はありません」
 そこで親分は、馬援に親書を添えて洛陽に送った。まったく面識はなかったが、光武帝は、普段着のままで馬援を部屋に招き入れ、「あなたは二人の帝王の間を自由に歩き回っておられる、羨ましいことだ」と笑いながら言った。「陛下は私が刺客ではないかと警戒なさらないのですか」と問う馬援に「ばかなことをおっしゃるな、あなたは説客でしょう。さあ忌憚なく天下のことを話し明かそう」。これぞ帝王の資質であると感得した。
 
 自らのつまづきだけは気づかない晩年
 その報告を聞いた親分は、光武帝に息子を人質を入れて忠誠を誓ったが、どうしたことか裏切り、公孫述に寝返った。馬援は、光武帝の命を受けて出陣し、自分の助言を裏切った親分の軍を打ち破り、その逃亡した公孫述は悲憤のうちに死ぬ。この後は、東に西に、そして南は今のベトナムまで、軍を率いて光武帝の天下統一に邁進したが、62歳で戦場で病死した。
 生前、私財を溜め込むことを一切せず、将軍仲間たちに、軍策、そして政治的行動規範についてアドバイスを授け続けた馬援であった。死んでしまうと、軍資金を横領したと冤罪を被せられ、遺体の埋葬も許されなかった。家族の命がけの働きかけで雪辱、復権がなされたのは、3代目の章帝の時代になってからであった。
 強い口調のアドバイスが、批判と受け取られ恨まれたのだろう。
 范曄は、馬援伝の最後にこう論評している。
 「人は、他人の言動なら判断は明晰となる。もし他人を観察する明るい目を自らに向けることができれば、他人との応対にも気をつけるようになり、自分のことも先の先まで見通すことができるだろう」
 ちなみに、馬援は、戦いは馬の優劣で決まると考えていて、名馬を見抜く目を優れていたという。
 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com
 
※参考文献
『中国古典文学大系13 漢書・後漢書・三国志列伝選』本田済編訳 平凡社
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫

 

 

 

 

 

 

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