発表によれば、金融機関の人民元建て貸出・預金の基準金利を8日からそれぞれ0.25%引き下げ、金融機関の貸出・預金金利の変動許容範囲も10%以内に調整する。
中国が利下げを実施するのは、リーマン・ショック後の08年12月以来約3年半ぶり。その背景には景気減速の強まりがあると見られる。本格的な金融緩和に踏み切ることで、景気の腰折れを回避しょうとする中国政府の思惑が読み取れる。言い換えれば、利下げは厳しい経済情勢の裏返しである。
今年に入ってから、住宅バブル崩壊の懸念とユーロ危機の影響で、景気減速傾向が一層鮮明になり、厳しい統計データの発表が相次ぐ。
国家統計局によれば、今年第1四半期のGDP成長率は8.1%で、昨年1Q9.7%、2Q9.5%、3Q9.1%、4Q8.9%に続き、5四半期連続の減速である。しかも前期の2011年4Qより0.8ポイント低下で、減速のスピードが加速している。
投資と消費および輸出は経済成長をけん引する三大要素と見られる。前年同期に比べ、今年1~5月期の固定資産投資は20.1%増、消費は14.5%増、輸出8.7%増。国際的に見れば、決して悪い数字ではなく、いずれも高い伸び率と言える。しかし、中国昨年通年の実績に比較すると、投資、消費、輸出の伸び率はそれぞれ3.7ポイント、2.6ポイント、11.6ポイント低下している。そのうち、輸出伸び率の下落は著しく、ユーロ危機による実体経済への影響が大きい。
欧州債務危機がギリシャからスペイン、イタリアなどユーロ加盟国に飛散している現在、解決の出口が見えず、中国経済への悪影響は出ている。EUは中国の最大の輸出先であり、2011年EU向け輸出は前年比14.4%増の3,560億㌦にのぼり、中国輸出全体の18.8%を占める。ところが、ユーロ危機の影響で今年1-5月のEU向け輸出は0.8減に転落した。この減少傾向は暫く続く見通しである。
ユーロ危機の影響による輸出伸び率の大幅な鈍化に加え、投資と消費の勢いも衰えており、第2四半期のGDP成長率は8%を下回る確率が高い。
こうした景気減速が加速するなか、中国政府は景気刺激策の次の一手を模索し続けている。そのうちの1つは、今回の利下げに示される金融緩和への転換である。
金融緩和の手段として良く使われるのは次の3つである。1つは商業銀行が中央銀行に預かる預金準備率を下げること。2つ目は銀行からの貸し出し総量規制(いわゆる窓口指導)を緩和または撤廃すること。3つ目は基準金利を下げること。そのうち、1 と 2 は昨年末から実施しているが、3については、これまで慎重な姿勢を崩さなかった。それは2011年通年のインフレ率4.5%に対し、一年期預金の利息は3.5%で実質的なマイナス金利が続いているからだ。
だが、今年に入ってから情勢が一変した。消費者物価指数(CPI)は1月の4.5%がピークで、1月3.2%、3月3.6%、4月3.4%、5月3.0%と3ヵ月連絡で低下している。預金金利は実質上、プラスに転じた。生産者物価指数(PPI)も10ヵ月連続で低下し、今年5月は前年同期比マイナス1.4%となっている。利下げの環境が整ったため、金融当局は断行に踏み切ったのである。
ただし、0.25%の利下げは不十分なもので、景気への刺激効果が限られ、マーケットの反応も薄い。筆者は、景気への下支えとして追加利下げが必要で、早ければ7月後半か8月に再び発表すると見ている。今回を含め、年内に2、3回の利下げがあるのではないか、と思う。
今回の利下げ措置に先立って、中国政府は環境分野における大型投資計画の発表、高速鉄道投資の再開、大型鉄鋼プロジェクト投資の許可、省エネ家電購入補助金の実施、エコカー減税の一部復活など、次々と景気刺激策を打ち出している。こうした一連の景気刺激策の実施によって、経済減速に歯止めがかかり、第4四半期から好転する可能性が高い。通年では7.5%~8%の成長は可能だと、筆者は見ている。