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第76回
《SL動態保存》で地域を再駆動せよ!
~日光市で東武鉄道「C11大樹」・神奈川県山北町で「D52」が出発進行~

次の売れ筋をつかむ術

 

 
〽汽車 汽車 ポッポ ポッポ シュッポ シュッポ シュッポッポ・・・
と、煙と蒸気を吐きながら疾駆する黒がねのSL(Steam Locomotive=蒸気機関車)は、鉄ちゃん・鉄子ならずとも、老若男女に愛される懐かしい産業遺産だ。
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最盛期には何万台ものSLが旅客や物資を届けるため、「何だ坂、こんな坂」と全国各地の鉄路を駆け回っていた。
 
 
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デゴイチの愛称で知られる「D51」だけでも、1936年(昭和11年)から1115両も製造された。
 
その後のディーゼル機関車や電気機関車でも、これだけの数が製造された機関車は後にも先にもない。
 
しかし、1975年(昭和50年)12月、「さようならSL」のヘッドマークを掲げた「C57」(さいたま市の鉄道博物館に静態保存)が牽引する旅客列車が北海道の室蘭本線を走ったのを最後に、定期運行されるSLは姿を消した。
 
ロウソクの火が消え去る前に一瞬明るくなるように、その直前には全国的にSLブームが盛り上がったものの、全廃とともに終焉を迎えた。
 
そのほとんどは解体処分されて鉄くずとなり、ほんの一握りの幸運なものだけが、地域の公園や好事家によって静態保存されて来た。
 
また、静岡県の大井川鐵道が、1976年(昭和51年)から観光を目的に動態保存を続けているように、一部で生き延びて来た。
 
運良く静態保存されたSLたちも、設置された当初はもてはやされたものの、引退から半世紀を過ぎ、今やその多くが錆び付き、朽ち果てるに任せる状態となっている。
 
自治体が財政難に陥る中、維持費を捻出するのに四苦八苦し、お荷物となって、いつの間にか廃棄されていることも少なくない。
 
ところが、近年、SLの産業遺産としての価値が見直され、観光資源としての活用を目指して、各地で《SL動態保存》が活発化しつつある。
 
《SL動態保存》とは、一度、引退し、静態保存されているSLを、再度、整備し直し、動ける状態にして保存することだ。
 
さらに、実際に乗客を乗せて運転することを、《SL動態保存運転》と呼ぶ。
 
SLが煙と蒸気を吐き出しながら疾駆する姿は、まるで生き物のようだ。
 
それは見る者の郷愁を呼び起こし、アナログの音と振動が他では味わえない鮮烈なライブ感を与えてくれる。
 
以下、《SL動態保存》に関する、各地における新たな取り組みの中から、栃木県の日光市における東武鉄道の「C11大樹」、および、神奈川県の山北町における「D52」の2つの挑戦をご紹介したい。
 
 
 
●日光で東武鉄道が「SL C11」が牽引する指定席列車を本格始動!
 
東武鉄道(根津嘉澄社長)は、栃木県日光市(斎藤文夫市長)を走る鬼怒川線の沿線観光の目玉にと、「SL復活運転プロジェクト」を立ち上げ、実際に乗客を乗せて列車を走らせる《SL動態保存運転》の準備を進めて来た。
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そして、2017年8月10日から、1966年(昭和41年)以来、半世紀ぶりにSLの定期運行を開始する。
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日光市役所や新たな人気スポットとなっている「道の駅日光 日光街道ニコニコ本陣」の最寄り駅である下今市駅から、鬼怒川温泉駅の間の12.4kmを、片道約35分で運行予定だ。
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下りの下今市駅発⇒鬼怒川温泉駅行きと、上りの鬼怒川温泉駅発⇒下今市駅行きのSLが牽引する約200席の指定席列車を、それぞれ、朝から夕方まで1日3本、土休日を中心に、2017年度は98日間、計588本運転する。
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SL座席指定料金は、運転区間内は一律料金で、大人750円(税込)、小児380円(税込)。別途、乗車区間の運賃が必要だ。
 
 
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JR北海道から借り受けた「SL C11」が牽引し、JR貨物とJR西日本から譲渡された車掌車、JR四国から譲り受けた客車を、JR東日本から購入したディーゼル機関車が後押しする編成である。
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JR5社(北海道・東・西・四国・貨物)と大井川鐵道など私鉄3社の計8社の鉄道会社の力を借りて企画を進め、電車の運行しか経験がない東武鉄道の社員から希望者を募って、SLの機関士や整備士を自前で育成した。
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「SL C11 207」は「大樹」と名付けられた。
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「大樹」とは「将軍」の別称・尊称で、世界遺産「日光の社寺」・日光東照宮に祀られている徳川家康を、また、世界一の高さを誇るタワー「東京スカイツリー」を想起させ、力強く大きく育ってほしいとの思いが込められている。
 
 
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SLのヘッドマークのデザインは、徳川家の家紋「三つ葉葵」もイメージさせる、C11の3つの動輪を表現した絵に「大樹」の文字が重なる。
 
 
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下今市駅は、かつてSLが現役で疾走していた時代を彷彿させるレトロ感のある駅舎に改築される他、SL機関庫も新たに設けられる。
 
 
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発着する下今市・鬼怒川温泉の両駅には、SLを方向転換する、JR西日本から譲渡された転車台も設置される。
 
日光市では東武鉄道と連結して、「大樹」を、文字通り、観光振興の柱となる大きな樹に育てるため、地域を挙げて応援している。
 
「大樹」が日光の新たな日の光となり、日本中、世界中から訪れる老若男女を“ニコッ!”と笑顔にしてくれるに違いない。
 
 
 
 

●かつての“鉄道の町”山北町で「D52奇跡の復活事業」が出発進行!

 
2016年3月18日、ウィークデーの金曜日にもかかわらず、山北駅前は、大勢のチビッ子と鉄道好きの鉄ちゃん・鉄子であふれかえった。
 
「山北鉄道公園」に静態保存されていたSLの「D52」を、何と半世紀ぶりに動かすことになり、その試運転と汽笛の試吹を行うこととなったのだ。
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山北町(湯川裕司町長)は丹沢湖で知られる、神奈川県の最西端に位置する人口1万1千人の山あいの町だ。
 
 
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現在の御殿場線・山北駅は、列車の本数も限られ、Suicaも使えない無人改札しかない。
 
しかし、今や相当な鉄道ファンでなければ知らないことだが、山北町は、かつて、日本の大動脈だった東海道本線の交通の要衝として栄え、「鉄道の町」と呼ばれていた。
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実は、東海道本線は、1889年(明治22年)に新橋-神戸間の全線が開業してから、1934年(昭和9年)に丹那トンネル(静岡県)が開通するまで、山北駅がある現在の御殿場線を通っていたのだ。
 
 
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山北駅で燃料の石炭を一杯に詰め込んだSLが縦列を組み、煙と蒸気を吐き出しながら、長い客車や貨車を牽引しつつ鉄路の山道を疾駆していた。
 
 
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しかし、1968年(昭和43年)の御殿場線の電化に伴い引退を余儀なくされる。
 
往時のにぎわいを唯一残すシンボルとして、「D52」は1970年(昭和45年)に現在地に移設された。
 
 
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そして、その翌年から鉄道公園保存会が中心となり、「山北鉄道公園」に静態で維持・管理されて来た。
 
山北町では、チビッ子に夢を与え、町に元気を取り戻そうと、この長らく止まったままだったSLを動かす事業を企画した。
 
折しも、政府が2015年度補正予算に位置づけた、「一億総活躍社会の実現」に向けた緊急対応の地方創生加速化交付金として1000億円が計上された。
 
山北町は、この機を逃さず、交付金を申請。内閣府地方創生推進室から、「鉄道遺産を活用した元気なまちづくり事業」に2355万円の交付金を獲得した。
 
そして、2015年12月、山北町地方創生プロジェクト「D52奇跡の復活事業」の補正予算案が町議会で可決。その後、準備を進め、ついに、試運転の日を迎えたのだった。
 
復活の整備を託された元・国鉄機関士の恒松孝仁さんが運転席につき、湯川町長が出発の合図を送った。
 
50年の時を経て、汽笛に続いて「D52」がゆっくりと前進すると大きな歓声が沸き起こった。
 
かつての鉄道の町が、《SL動態保存》によって、再び出発進行の時を迎えたのだ。
 
「日本で唯一D52が動く町」となった山北町では、その後も鉄道を活用した観光振興に拍車がかかっている。
 
駅前のふるさと交流センターには鉄道資料館が開館し、山北町商工会ではSLグッズの開発や販売を開始。線路の延伸に向けた調査も進む。
 
2017年に入ってからは、町に点在する明治時代の鉄道遺構を活用し、元・国鉄職員や鉄道研究家を講師とするバスツアーを開催し、人気を博している。
 
 
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機関車も地域もじっと何もしないで停止しているだけでは、錆び付いて朽ち果てて行くだけだ。
 
《SL動態保存》で、官民で力を合わせて地域を再駆動しよう!
 
 
 

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