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国のかたち、組織のかたち(30) 巨大企業の再生(JALの場合 稲盛式経営手法)

指導者たる者かくあるべし

 アメーバ経営の導入

 2010年1月に巨額の赤字を抱え経営破綻した日本航空(JAL)は、2012年3月期決算では、2049億円という過去最高の営業利益を出すまでに急速なV字回復を果たした。この魔法の背景には、会長として乗り込んだ稲盛和夫(京セラ創業者)の持論である「アメーバ経営」の導入、実践があった。

 アメーバ経営とは、ご存知のように、稲盛が小さな町工場を設立した初期から実践、改良を重ねてきた経営手法だ。会社組織をアメーバという独立採算式の小さな組織に細分化し、各アメーバに経営リーダーを置き、収支を管理させる方式だ。この方式では、末端の組織まで収支意識(経営者意識)が行き渡り、社員ひとりひとりが社全体の収支にも気を配るようになり、社員のやる気と一体感を生み出す。その効果は、京セラだけでなく、稲盛氏が立ち上げた第二電電(現K D D I)の躍進にも繋がり。稲盛の代名詞のようなものだ。

 「乾いた雑巾を絞ってでも利益を出す」という稲盛方式の評判に、当初は、幹部社員にも反発は強かったが、幹部教育とともに、組織改変に10か月をかけて、社内にまで収支意識を植え込むことに成功する。

 路線別採算単位の創設

 とはいえ、航空輸送産業は、稲盛が経営努力してきた製造業と違い特殊な構造を持っていた。各事業部の中で、営業収入があるのはチケットを販売する旅客販売統括本部だけだ。パイロットが所属する運航本部や、客室乗員の客室本部、整備本部は収入のないコスト部署である。それらを細分化してアメーバを組織しても部門別採算単位として機能しない。

 そこで、稲盛と京セラから乗り込んだ改革実行部隊は、発想を転換する。運航路線別に国際線と国内線を分け、それぞれに近隣路線をまとめて路線統括本部を置いて採算評価単位を構築して収支効率を競わせた。

 これによって、「安全最優先」を隠れ蓑にしてきたコスト集中部門にも収支意識の変化が生まれる。路線乗客数に合わせた機材の変更も、各部門の進言で進められる。小さなことでは、コックピットでコーヒーサービスを当たり前に受けてきたパイロットたちも魔法瓶を持ち込むようになり、整備用の手袋や雑巾を使い捨てにしていた整備部門でも、洗って再利用するようになる。自宅から乗務地までのタクシー利用も、送迎バスの相乗りに切り替えられる。社員の意思で。

 乾いた雑巾を絞るどころか、無駄だらけだったJALの濡れ雑巾は、絞ればどんどん利益が出る体質を持っていたのだ。あえてだれも、雑巾を絞ろうとしていなかったのをあらためることで奇跡の復活に繋がった。

 大組織病に陥らないために

 JALが陥った隘路(あいろ)は、どんな組織にも起こりうる危機だ。経営計画と予算は、トップと一部の企画部門から降りてきて、社員はそれを遂行するだけ。いわゆる大企業病だ。決して社員数万の大企業だけがかかる病気ではない。トップの経営判断の細部が社員に知らされず、「知らしむべからず、よらしむべし」的組織運営からは、末端からの工夫と一体感は生まれない。

 JALは、経営改革の過程で、経営理念として「JALフィロソフィー」を定めて、全社員に冊子として配布した。

 第1章 
 一人ひとりがJAL
 本音でぶつかれ 率先垂範する渦の中心となれ
 尊い命をお預かりする仕事 感謝の気持ちを持つ お客様の視点を持つ
 第2章
 売上を最大に、経費を最小に
 採算意識を高める 公明正大に利益を追求する
 正しい数字をもとに経営を行う

 稲盛和夫からの遺言である。(この項、終わり)

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考資料
『JALの奇跡 稲盛和夫の善き思いがもたらしたもの』大田嘉仁著 致知出版社
『稲盛和夫最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』大西康之著 日本経済新聞出版社

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