◆今年も年金受給額5%アップ
今年3月20日、中国人力資源社会保障部(厚生労働省に相当)は2019年度の全国年金受給者の受給額を前年比5%アップすると発表した。これによって、中国の1人当たり年金受給額は15年連続で増加するこるになった(図1を参照)。仮にAさんの2004年の年金受給額が1000元とすれば、2019年時点で3,534元になり、15年前に比べれば3.5倍に上る。
中国の年金受給額ベースアップの比率を決める要素は主に2つある。1つは経済成長、2つ目は物価指数である。2004-18年の名目GDPは16.2兆元から90兆元へと5.5倍増となり、インフレ率も年平均2%以上となっている。中国政府はこの2つの要素を考案し、毎年の1人当たり年金受給額の上げ幅を決めるのだ。
年金受給額の全国平均水準で言えば、2012年に月額1,721元だったが、2017年に2,510元へと増えた(図2を参照)。日本円に換算すれば、4万円強で日本の年金平均水準の約3分の1に過ぎないが、15年連続増額は日本の年金事情と大きく違う。
出所)「新京報」2019年3月21日記事により沈才彬が作成
出所)中国当局の発表により沈才彬が作成。
周知の通り、日本の年金事情は今、散々な状況にある。筆者を例にすれば、ここ数年、年金受給額は減額があっても増額が滅多にない。今年は遂に増額したが、増加額は年間で数百円程度だ。中国1人当たりの年金増額月間ベース125元、年間ベース1500元(約2.5万円に相当)に比べれば、正に雀の涙みたいだ。日中両国の年金事情の相違は実に、低迷日本と成長中国の現実を反映しているのだ。
◆将来、年金事情が一変する可能性も
これまで中国の年金生活者の受給額は15年連続で増加してきたが、しかし今後、増額続く保証がない。10年後、日本のように年金が増額ゼロもしくは減額する可能性が高い。中国の年金事情を一変させる要素は次の3つと考えられる。
1つ目は経済減速で年金増額を支える国家財政の余力は弱まっている。GDP成長率の低下に伴い、年金増額幅の縮小も避けられない。仮に景気後退の場合、財源確保が出来ず年金減額もあり得る。
2つ目は、インフレ率の低下である。経済減速に伴い消費も低迷し、インフレ率が低下し、場合によってはマイナスに転落する。従来のような年金アップを続けることは事実上不可能となる。
◆最大の問題は少子高齢化
3つ目の要素は少子高齢化の進行である。これは年金の行方を左右する最大の要素とも言えよう。
中国の現行法律では60歳(女性55歳)定年と決めているため、16歳~59歳の人たちを生産年齢人口という。1980年代以降、1人子政策の実施によって、中国の生産年齢人口は2012年から7年連続で減り続け、合計4,343万人も減少したのだ(図3を参照)。一方、同期60歳以上の人口は1億2,714万人から2億4,949万人へと1億2,235万人も増加した。
出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。
生産年齢人口の減少と高齢者人口の増加は、社会保険加入者の減少と年金生活者の増加を意味する。その結果、社会保険料の収入が年金支給額の増加に追い付かず、2013年から赤字状態が続き、17年末時点で累計赤字が4.7兆元にのぼる。
予測によれば、2035年に高齢者人口は4億人を突破し、生産年齢人口対高齢者人口の比率は現在の3.6:1から1.8:1へと変わる。解かりやすく説明すれば、現在3.6人の労働力が1人の高齢者を養うが、15年後は1.8人が1人を養うことになる。社会保険の累計赤字額も68兆元にのぼり、同年GDPの38%を占める。
その時、いかに年金支給の財源を確保し、社会安定を保つかが中国政府の最大の課題となるかも知れない。 (了)