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経済・株式・資産

第118話 最悪の局面を脱却しつつある中国経済

中国経済の最新動向

筆者は3月下旬から約1ヵ月程度、北京や上海など中国現地調査を実施した。昨年8月現地調査の時、中国経済の厳しさを肌で感じたが、今回は違う。経済の上向きの動きが広がり、景気回復に伴い町の人々の表情にも明るさが戻ってきた。現地調査を通じ、中国経済はトランプ政権が発動した米中貿易戦争の衝撃を乗り越え、最悪の局面を脱却しつつあると、実感した。

堅調さが目立つ鉱工業生産

 今年3月に入ってから中国経済の復調が鮮明になっている。

先ず製造業と非製造業の購買担当者指数(PMI)を見よう。50は景気の好不況を示す分岐点である。50を超えると景気が上向き、逆に50を下回れば不況に転じる。1に示すように、今年3月、製造業購買担当者指数は50.5となり、4ヵ月ぶりに50を上回り、昨年10月以来の高水準だ。非製造業購買担当者指数も54.8で、サービス業の好調ぶりを示している。

正しいもの.png

 出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。

 

 製造業購買担当者指数の好転は、鉱工業生産の持ち直しにも裏付けられている。政府当局の発表によれば、今年3月の鉱工業生産は前年同月に比べ8.5%増で、過去40ヵ月の最高水準を記録した(2を参照)。鉱工業生産の好調は中国経済全体の回復を反映したものと見ていい。

図2.png

 出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。

 

消費・投資・輸出も改善

 GDP成長を左右する3大要素である輸出、投資、消費のいずれも回復の動きが顕著となっている。

 

まず輸出を見よう。今年3月中国の輸出は米ドルベースで前年同月に比べれば14.2%増、昨年10月以来6ヵ月ぶりの2桁成長となった(図3)。2月の20.7%減に比べ、3月輸出の急回復が目立つ。国・地域別に調べれば、EU、ASEAN及び「一帯一路」沿線国向けの大幅増は輸出全体に大きく貢献したことがわかる。

 

図3.png

 出所)中国税関の発表により沈才彬が作成。

 投資も回復している。設備、インフラ、不動産などを含む固定資産投資は今年1~3月に前年同期比で6.3%増となり、10ヵ月ぶりの高水準だ。そのうち、不動産投資の伸びは特に注目される。今年1~3月11.8%増で、2017年以来の高水準である(4を参照)。

 

図4.png

 出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。

 

 消費は引き続き堅調さを保っている。今年3月の全国小売総額は前年同月に比べ8.7%増加し、昨年9月以来の高水準だ。同月のインフレ率も2.3%となり、4ヵ月ぶりに2%台に戻った。

 

図5.png

 出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。

 以上述べたように、生産、消費、投資、輸出など景気の動向を反映する経済データは今年3月からいずれも改善しており、中国経済の回復を裏付けている。仮に今年1~2月は景気の底とすれば、3月は底を抜け、上向く転換点となったと見ていい。

 

「春江水暖鴨先知」~中国経済の復調を先取りするマーケット

 「春江水暖鴨先知」は宋の時代の詩人・蘇軾の名句である。「春が来ると、川の水が温かくなるのをアヒルが一番早く知っている」の意味だ。マーケットは正に中国経済の復調を先取りする「アヒル」だ。

 

上海総合株価指数の推移を見よう。今年に入ってから、上海株価総合指数の上昇が続いている。4月19日の終値は3270.8で、昨年末時点の2493.9より31%も上昇している。6に示す通り、今年3月末時点で、年初来世界株価上昇率では中国は1位となっている。

図6.png

 出所)2019年3月末時点の各国の株価データより沈才彬が作成。

 

為替市場でも中国経済の見通しを楽観視する傾向が強まり、人民元対ドルレートの上昇に繋がっている。今年4月19日の人民元為替レ―ト中間値は1ドル=6.7043元で、昨年末時点の1ドル=6.8632元より2.3%の元高となっている。

 

外貨準備高も海外資金の流入で増加し、今年に入ってから3ヵ月連続で増え続けている。3月末時点で外貨準備高は3兆988億ドルにのぼり、昨年末より261億ドル増えた。

筆者は昨年12月開催の中国ビジネスフォーラムで講演した際、2019年中国に経済危機または金融危機が発生するかどうかの判断材料として、上海総合株指数が2000を割れるか、人民元対ドルレートが1ドル=7元の壁を突破するか、外貨準備高が3兆ドルを下回るかという3つの要素を挙げた。現状から見れば、今年、中国に経済危機や金融危機発生の確率がゼロに近いと見ていい。

 

IMFは中国経済の見通しを上方修正

 さる4月17日、中国国家統計局は今年第1四半期のGDP成長率を6.4%と発表した。過去1年間の実績を見ると、2017年4Q6.9%、18年1Q6.8%、2Q6.7%、3Q6.5%、4Q6.4%と4期連続で減速している。今年1Qはと昨年4Qと同じ6.4%成長であるので、景気の下ぶれに歯止めがかかったことが読み取れる。

その背景には、中国政府による大型減税、金融緩和、大規模な公共投資などの実施及び米中貿易交渉の進展がある。さらに4月1日からは製造業の現行税率が16%から13%へ、交通輸送業の税率が10%から9%へと引き下げられる。企業の経営環境は一層改善し、経済成長の持ち直しが期待される。通年では政府目標の6~6.5%成長が実現できると思う。

図7.png

 出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。

 

中国経済の復調が今年4月に発表されたIMF最新報告書「世界経済の見通し」にも反映されている。IMFによれば、長引く米中貿易戦争の影響や日米欧諸国の成長鈍化などによって、2019年世界経済の見通しを3.5%から3.3%へと下方修正した。同時に米国を2.3%から2.1%へ、英国を1.2%から0.9%へ、ドイツを1.3%から0.8%へ、フランスを1.3%から1.1%へ、日本を1.1%から1.0%へとそれぞれ下方修正した。主要国の中で上方修正したのは中国だけで、6.2%から6.3%へと変更した(図7を参照)。中国経済は現在の勢いを保てば、通年の実績はIMFの予測を上回る可能性が高いと、筆者は見ている。 (了)

 

 

 

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