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採用・法律

第70回 賃料減額請求とはどのような権利か?

中小企業の新たな法律リスク

 山本社長は都内で飲食店を経営していますが、いくつかの店舗は建物を借りて営業をしています。日頃から材料の仕入れ代などを定期的に見直すなどして経費の削減に努めていますが、今回、店舗の賃料を減額できないか検討することにしました。どのような場合に賃料を減額することができるのか、山本社長は賛多弁護士に相談しました。

* * *

山本社長:当社は都内で飲食店を経営しています。そのうち何店舗かは建物を所有するオーナーから建物を借り、営業をしています。実はここだけの話ですが、その中には経営が非常に苦しい店舗もあります。なんとか黒字化したいため、改めて経費を見直してみたのですが、やはりオーナーに支払っている賃料が経費に占める割合が大きく、しかも、固定で発生するため、かなりの負担になっています。どのようにしたら賃料を下げることができるのでしょうか。

賛多弁護士:賃料も賃貸借契約で定められた契約内容ですから、貸主と借主が賃料の変更に合意すれば賃料を下げることができます。賃貸借契約は長期にわたって継続し、貸主と借主の信頼関係が重要な契約ですから、まずはなるべく穏当な方法をとる必要があります。賃料の減額はオーナーにとって不利ですから、通常は応じてもらえないことが多いと思います。ただ、御社が経営難を理由にその建物から退去した場合、オーナーは次の借主を探す手間がかかりますし、その間、賃料収入を得ることもできません。そのような事態になるよりは賃料を下げたほうがよいとオーナーも考えるかもしれません。

山本社長:なるほど、まずはオーナーと交渉してみるということですね。もし、オーナーが賃料の減額に応じてくれない場合はどのような方法が考えられますか。

賛多弁護士:その場合は、借地借家法に基づいて賃料減額請求をすることが考えられます。賃料も賃貸借契約で定められた契約内容であるため、双方はその金額に拘束されます。しかし、賃貸借契約は長期にわたって継続するため、その間に賃料が不相当に高額になる場合があります。そのような場合まで借主が賃料を変更できないというのは妥当ではありません。そこで、双方が賃料を合意した以降、経済事情の変動等により、賃料が不相当に高額になった場合、借主は貸主に対して賃料減額請求をして賃料を適正な金額まで下げることができます。


山本社長:なるほど。オーナーとの合意ができなくても賃料を下げる方法はあるのですね。ただ、あくまでも経済事情の変動等により不相当に高額になったといえる必要があり、単に借主の経済状態が悪化したというだけでは認められないということですね。

賛多弁護士:そのとおりです。なお、今は借主からの請求について話をしていますので、賃料減額請求としていますが、貸主もまた経済事情の変動等により賃料が不相当に低額になった場合には、借主に対して賃料増額請求をすることができます。つまり、貸主も借主も賃料を取り決めた後、経済事情の変動等によって賃料が不相当になった場合、賃料を適正な金額に変更することができるということです。

山本社長:分かりました。では、借主が貸主に賃料減額請求をした場合、それ以降は自らが適正だと考える賃料を貸主に支払えばよいということになりますか。

賛多弁護士:いえ、そうではありません。貸主は借主の賃料減額請求を認めず、これまでの賃料を引き続き請求することもできます。この場合、借主が賃料を適正な金額まで下げるためには、裁判所でいくらが適正な賃料といえるかを判断してもらう必要があります。裁判所が適正な賃料を判断するまでの間は、借主は元々の賃料を支払わなければ債務不履行となってしまいます。場合によっては賃貸借契約の解除ということにもなりかねません。

山本社長:賃料の減額を請求できるとはいえ、貸主との間で話がまとまらない場合には、裁判所で適正な賃料を判断してもらう必要があり、それまでは元々の賃料を支払う必要があるということですね。

賛多弁護士:そうです。仮にその後、裁判所で借主の主張が認められ、賃料が適正な金額まで下げられた場合、賃料減額請求をした以後は、借主は貸主に賃料を過大に支払ったということになります。そのため、貸主は過大に受領した金額に年10%の割合の利息を付して借主に返還しなければなりません。

山本社長:年10%の割合の利息というのは貸主にとっても大きな負担ですね。

賛多弁護士:そのとおりです。裁判所で借主の主張が認められた場合、貸主としては多額の利息を付して返還しなければなりませんので、貸主としても賃料減額請求を受けた場合は慎重に対応を検討する必要があるということです。

山本社長:なるほど、貸主も借主からの賃料減額請求には真摯に耳を傾けるべきということですね。賃料減額請求をする上で何か注意点はありますか。

賛多弁護士:単に周辺の賃料相場と比べて賃料が不相当に高いというだけでは、賃料減額請求は認められません。例えば、借主が貸主との間で契約をした後、改めて周辺の賃料相場を調べてみたら、賃料が不相当に高いことが判明したとします。この場合、借主が賃料減額請求をしたとしてもこれは認められません。賃料減額請求は、あくまでも双方が賃料を合意した以降、経済事情の変動等により、賃料が不相当に高額になった場合に認められるものです。借主と貸主が賃料をいくらとするかは自由です。仮にそれが客観的には不相当な金額だったとしても、賃料減額請求でこれを適正な金額まで下げることはできないのです。

山本社長:双方が賃料の取り決めをした後で、経済事情の変動等があって不相当な金額になったという一連の経過が必要ということですね。

賛多弁護士:この点は誤解しやすいため、注意が必要です。

山本社長:分かりました。それでは、当社が建物オーナーに賃料の減額を求めるための交渉の助言、また、当社の賃料減額請求が認められるかどうかの検討をお願いできますか。

* * *

 賃料は貸主にとっては固定収入、借主にとっては固定支出であり、双方ともに重大な関心を有しています。そのため、建物の貸主と借主との間では賃料増減額請求が度々問題となります(借地借家法32条1項)。
 賃料増減額請求においては、貸主と借主とが賃料を合意した時点の賃料相場と現在の賃料相場との比較が問題となることが多々あります。オフィス賃料の相場については、たとえば、「三幸エステート株式会社」や「三鬼商事株式会社」のレポートが非常に参考になります。

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 山田 重則

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