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第78話 中国は「中所得国の罠」に陥るか

中国経済の最新動向

 中国当局の発表によれば、2015年中国のGDP(国内総生産)総額は10兆8600億ドルに達し、1人当たりGDPが7900ドルを超えた。国連・世界銀行の基準によれば、中国は高位中所得国(4,126~12,735ドル)に分類される。今後5~10年、中国は高所得国(先進国)の仲間入りを果たすか、それとも「中所得国の罠」に陥るか、厳しい試練が待ち受ける。

「中所得国の罠」とは何か?
 「中所得国の罠」とは、自国経済が中所得国のレベルを達成した後、成長が停滞し、高所得国(先進国)入りがなかなかできない状況をいう。多くの新興国は低賃金の労働力や安価な土地使用料等を原動力として経済成長を実現し、中所得国の仲間入りを果たした。しかし、その後、労働集約型成長から技術集約型成長への転換を実現できず、自国の人件費の上昇や後発新興国の追い上げ、先進国の先端イノベーション(技術力等)との格差などによって、国際競争力を失い、経済成長が停滞する現象が起きる。この現象は「中所得国の罠」と呼ばれる。

 これまで低所得国から中所得国になることができた国は多いが、中所得国から高所得国の水準を達成できた国は少ない。新興国の成功例は特に稀である。中所得国において、この罠を回避するには、規模の経済を実現すると共に産業の高度化が欠かせない。そのために必要な技術の獲得や人材の育成、社会の変革、金融システムの整備及び腐敗・汚職の根絶等が不可欠だが、現状ではなかなか進まない。これは中所得国の共通の課題となっている。

「中所得国の罠」という壁に「死屍累々」
 世界銀行と北京大学の共同研究によれば、1950~2008年の58年間、僅か13カ国・地域が中所得国から高所得国への転換に成功した。一方、数多くの中所得国は「中所得国の罠」にはまり、挑戦が失敗に終わった。

 例えば、20世紀80年代中南米諸国の失敗、90年代東南アジア諸国の失敗、21世紀中東諸国の失敗など、「中所得国の罠」という厚い壁の前に「死屍累々」といっても過言ではない。

 20世紀70年代、メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、ベル、ベネゼラなど中南米10数カ国は既に中所得国の水準に達した。しかしその後、金融危機や経済危機が発生し、今も「中所得国の罠」を突破できず、先進国入りを果たせなかった。

 80年代にマレーシア、タイ、フィリピン、インドネシアなどの国々は中所得国の水準に達したが、その後、アジア通貨危機に襲われ、先進国入りへの挑戦も挫折した。

 21世紀に入ってから、チュニジア、イェーメン、リビア、シリア、エジプトなど中東・北アフリカ諸国は中所得国から高所得国へ移行しようとしていたが、その後「中東民主化運動」の混乱に陥るため、いずれも失敗してしまった。これらの国々はいずれも今、先進国入りどころか、内戦状態またはテロ横行に苦しんでいる。

成功例である韓国と台湾の面白い共通点
 「中所得国の罠」という厚い壁の前に「死屍累々」とも言えるが、成功例がないわけでもない。

 世界銀行と北京大学の共同研究によれば、1950~2008年の58年間、中所得国から高所得国への転換に成功した13カ国・地域のうち、8カ国は欧州の国または中東産油国であり、残る5カ国・地域は日本とアジアNIESだった。日本はもともと戦前の先進国、シンガポールは都市国家、香港は一都市であるため、普遍的な意義を持つと思われない。典型的な意義を持つのはやはり韓国と台湾である。

 韓国と台湾の成功例を研究すればいくつかの面白い共通点が浮き彫りになる。第一に、戦前は日本の植民地であり、戦後はアメリカの影響下にある。

 第二に、「中所得国の罠」をクリアする前に、開発独裁の権威主義体制から民主主義体制への移行に成功した。
 ちなみに、これまで中東産油国を除き、独裁体制のままで「中所得国の罠」を突破した国は1つもなかった。

 第三に、イノベーションと産業高度化によって、高所得国入りの入場券を手に入れた。韓国も台湾も1990年代後半にかけて、一時的に「中所得国の罠」に陥り伸び悩んだが、その後、イノベーションを通じ、電機やITなどを核に産業を高度化し、高所得国入りを果たした。

中国は「中所得国の罠」に陥る可能性が50%以上?
 中国は少子高齢化社会への突入、労働力人口の減少、製造業の設備過剰、国有企業改革の遅れ、腐敗・汚職の蔓延など数多くの構造的な問題を抱えるため、「中所得国の罠」を突破できるかどうかは、その行方が楽観できない。これは中国指導者の発言のニュアンスの変化からも窺える。

 習近平国家主席は2013年11月2日、国際会議「21世紀理事会北京会議」の代表と会見した際、次のように発言をした。「われわれは中国経済の持続的な発展に自信を持ち、中国はいわゆる中所得国の罠に陥ることはない」と。この時点では中国政府は相当強気だった。

 ところが、1年後の2014年11月APEC商工諮問理事会代表と会見した時、習主席の発言のニュアンスが微妙に変わった。習氏によれば、「中国にとって、中所得国の罠を乗り越えられると思うが、問題はいつ乗り越えるか、乗り越えた後にいかにより良く前進するかである」と。

 さらに、6カ月後、中国財政大臣楼継偉氏の発言には楽観論が消えた。2015年4月24日、楼大臣が清華大学経済管理学院で講演した際、次のように述べている。「向こう5年または10年、中国は高齢化社会への突入が速すぎるため、『中所得国の罠』に陥る可能性が50%以上だ」

 今後5~10年、中国は本当に中所得国を卒業し高所得国の仲間入りを果たすことができるか?現在の共産党一党支配体制を維持し、民主主義体制へ移行せずに「中所得国の罠」を突破できるのか?世界の常識を覆す13億人口の巨大中国の挑戦が成功するか?今、中国は世界に注目されている。

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