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第22回 『民法債権法改正の賃貸借契約に及ぼす影響は?』

中小企業の新たな法律リスク

不動産賃貸業を営む山形社長は、賃貸借契約の解除についてのトラブルで、賛多弁護士のもとに相談にきました。その相談が終わったところで、改正民法(債権法改正)の施行(令和2年4月1日)まで、いよいよ半年を切ったことから、自然に、本改正が不動産賃貸業へ及ぼす影響についての話になりました。
 
* * *
 
山形社長:確か、今年の4月頃、来年4月の民法改正が不動産賃貸業に与える影響について、保証を中心に話を伺ったと思いますが、そのほかの影響点についても、お話を伺えないでしょうか。 確か、一定の場合、当然に賃料が減額されるという話をお聞きしたと思います。
 
賛多弁護士:そうです。賃借物の一部が使用収益をすることができなくなった場合において、賃借人の帰責事由によらないときは、賃料はその使用収益が不能になった部分の割合に応じて、当然に減額されることになることをご説明しましたね。
気を付けなければいけないのは、賃料は賃借物の使用収益の対価であることから、賃料の減額は賃借物の一部滅失の場合に限定すべきではないとの考えから、賃料が減額される場合が、使用及び収益ができないときに広げられた点、また、現行の民法では、「賃料の減額が請求できる」とされていますが、改正後は、賃借人の請求を待つまでもなく、当然に減額されることになる点ですね。
 
山形社長:そうでした。
 
賛多弁護士:賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合については、賃料減額のほか、解除についても改正がなされています。現在は、賃借物の一部滅失の場合で、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、一部滅失について賃借人に過失がない場合に限って解除を認めていますが、改正後は、滅失に限定せず使用収益ができなくなった場合に対象を広げ、また、賃借人の帰責事由の有無にかかわらず、残存する部分のみでは契約の目的を達することができないときには解除できることになります。賃借人が賃借の目的を達成できない以上、賃借人の帰責事由の有無にかかわらず、賃貸借を終了させることが相当であることが理由です。
 
山形社長:賃借人に責任があっても解除できるのですか‥‥?そうすると、賃借人に帰責事由があるときは、損害賠償請求の問題になるということでしょうか。
 
賛多弁護士:そのとおりです。賃借人に帰責事由があるときは、損害賠償請求の問題になります。
ところで、山形社長の会社では、建物所有目的ではない賃貸借物件の取り扱いはありますか。
 
山形社長:ええ、あります。
 
賛多弁護士:本改正では賃貸借の存続期限が最長20年から50年に延長されました。借地借家法や農地法が適用されない賃貸借については、影響が大きいと思われます。延長されることは、太陽光パネルの設置用地やゴルフ場の敷地、資材置き場などにするために賃貸借契約が締結される場合に、利点があると思われます。
 
山形社長:なるほど。
 
賛多弁護士:そのほか、不動産の賃貸人たる地位の移転に関しても、改正がありました。この点、多くはこれまで裁判所が判断してきたことを明文化した内容ですが、不動産の譲渡人及び譲受人が、①賃貸人たる地位を譲渡人に留保すること、かつ、②その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸すること、を合意したときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しないことになりました。つまり、不動産をBさんに賃貸しているAさんが、Cさんにその不動産を売ったとします。このときに、AさんとCさんの間で、賃貸人たる地位はAさんに残すように合意し、かつ、CさんがAさんにその不動産を賃貸することを合意したときには、Bさんとの関係においてはAさんが賃貸人のままということになります。ここでのポイントは、現在は、賃貸人たる地位を譲渡人に留保するには賃借人であるBさんの同意が必要でしたが、改正後はBさんの同意が不要になったことです。
 
山形社長:確かに、信託のときなど、賃貸不動産を第三者に譲渡した後も、賃貸不動産の譲渡人を賃貸人の地位にとどまらせるという実務の要請はあります。その際、そのような契約をすることが容易になるわけですね。
 
賛多弁護士:そうです。ここで、注意すべき点は、②の譲渡人と譲受人の合意という要件は、賃貸借以外の利用権限の合意、たとえば、使用貸借の合意では満たされないということです。
 
山形社長:そうなのですね。ところで、譲渡人であるAさんと譲受人であるCさん又はその承継人との間の賃貸借が終了したときはどうなるのでしょうか。
 
賛多弁護士:そのときは、譲渡人であるAさんに留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人であるCさん又はその承継人に移転することになります。これにより、賃借人Bさんが譲受人Cさん又はその承継人との関係で賃借権を主張することが出来ず、そのため譲受人Cさんからの明渡請求を拒否し得ない状況になることを防止することができます。
 
山形社長:なるほど。
 
賛多弁護士:そのほか、損害賠償請求ができる期間が延ばされました。現在は、賃借人の用途違反によって生じた損害賠償は、返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりませんが、10年を超える長期の賃貸借契約の場合は、返還を受けたときには、すでに用途違反行為のときから起算して10年の時効期間が経過していることもあります。賃貸借継続中は、用法違反の有無につき確認できないことも多いことに鑑み、返還を受けたときから、1年を経過するまでは、時効は完成しないことになりました。
 
山形社長:それは、賃貸人にとっては、よい改正ですね。それにしても、しっかり勉強しなくてはならないですね。
* * *
賃貸借についての改正は、判例法理の明文化も多いですが、上記(ア)賃貸借の存続期間の延長(改正法604条第1項)、(イ)不動産の賃借人たる地位の留保(同法605条の2第2項)、(ウ)賃借物の一部滅失等による賃料の減額等(同法611条)、(エ)賃借人の用法違反によって生じた賃貸人の損害賠償請求権についての時効完成猶予(同法622条、600条)などは、実務において影響があると考えられます。
民法(債権法)の改正まで、あと半年を切りました。対応が不十分という場合には、必要に応じ専門家を交えて、 準備をされることをお勧めします。
 
 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 堀 招子

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