日本人のマグロ好きはよく知られている。日本人の食卓には欠かせない食品の一つだ。そのマグロも年々、漁獲量が減り、水産業自体が減少傾向にある。そういう中で、マグロ流通の世界に新しい風を巻き起こしているのが"第三のマグロ"。特殊冷凍技術で第三のマグロを提供しているのが、生マグロの卸業を展開している株式会社ヤマサ脇口水産(本社・和歌山県那智勝浦町)である。
生マグロ日本一の漁獲量を誇る勝浦漁港。その那智勝浦の本拠地を置く同社は、創業が明治30年、生鮮マグロの仲買業を事業展開する会社だ。同社は新しい視点と販路開拓を生み出し、厳しい状況をはね返し勢いづいている企業である。販売部門を担当し、ネット販売、本マグロを提供する居酒屋を運営する別会社として、南紀勝浦鮪販売株式会社を設立している。
「第三のマグロ」とは、第一が生マグロ、第二が従来の冷凍マグロ、そして、特殊冷凍技術を使って提案しているのが第三のマグロだ。これは魚特有のドリップ(マグロの身からでる水分、細胞が破壊され水っぽくなる)がでなくて、流水に10分つけるだけで解凍できるというもの。解凍の特別な技術も必要なく、だれでも解凍できるという利点がある。
例えば、喫茶店や麺類屋でも本マグロの丼ものが食べられるようになる。今まで、マグロの解凍に必要だった調理技術が必要なく、厨房要らず、調理人要らず。一般家庭でも、他の飲食店でも適正価格で本マグロが簡単に食べられるようになっているということだ。 開発された第三のマグロの商品として、「海桜鮪(かいおうまぐろ)」は100g、500円の赤身から2000円の脂もの(中トロ・大トロ)でオリジナルブランド鮪として販売している。また、商品「海の生ハム」は天然国産の活〆黒皮カジキを使用したこだわりの逸品だ。
同社の飲食事業として、焼鳥チェーンの会社と業務提携し、「ほんまや 天満本店」(大阪)など3店舗を開業。最近、マグロのホルモン焼きの高級居酒屋を開業している。同社の脇口光太郎(44歳)は「マグロを蒲鉾と同じ感覚で厨房も使わず、どこでも調理できる店を目指しています。マグロは捨てるところがありません。すべての部位を活用します」という。
新しい感覚と新しい経営で事業を展開している。脇口社長は「他人を集めろ」「他力を大事にしろ」と檄を飛ばす。一人で何でもできるというのは傲慢だという。力を貸してくれる人友人が大事だという。もちろん、自力があって、他力を活用するという意味である。お客さまのことを考えなければ、いい仕事は実現しない、と言い切る。厳しい水産業界の中で、新機軸を打ち出している同社は注目を集めている。
上妻英夫