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第16講 正確な事実の聞き取りに失敗しないために~その3~

クレーム対応 実践マニュアル

【3】相づちに「申し訳ございません」は禁句。『共感』『慰労』『賞賛』の言葉をふんだんに使う。


お申し出者に『事実』と『事情』をたくさん話していただく方が、対応担当者としては対応策への判断の誤りも回避できる
わけですから、お申し出者にはこちら側のいただきたい情報を率先して話していただくことが望ましいですね。
そのためには、お申し出者がつい会話がはずむような相づちを打つことも、対応担当者としては大切な役目です。

ただ、クレーム対応の際の相づちはうっかりしていると、押しなべて「申し訳ございません」の繰り返し
になってしまいます。当然、申し訳ないという思いもありますのでついつい「申し訳ございません」
という言葉が口をついて出てくるのはやむを得ませんが、実は「申し訳ございません」と謝り続ければ
お申し出者の腹立ちが鎮まるのではないかという期待があることも否めません。

しかし、
相づちが「申し訳ございません」の繰り返しになる最大の原因は、
相づちにふさわしい言葉の引き出しが少ないことにあります。

ご自分たちでも、気がついているのでありませんか?“どうして私、申し訳ございません
しか言えないのかしら。もっと、ちがう言葉いわなきゃあ”と焦ってもみたり。


私もそんな時期がありました。「はい、申し訳ございません」「さようでございますか。申し訳ございません」
「それは、申し訳ございません」なんて調子で相づちを打っていると、「あんた、申し訳ございませんはもう、ええねん!」
と逆に苛立ちを高めることになったり、
「申し訳ございません、申し訳ございませんて、申し訳ございません言うたら、許すと思てんのとちゃうか!」
と腹立ちまでも高めることになった経験も一度や二度ではありません。

そんなふうに、「申し訳ございません」という言葉を使うことに釘をさされてしまうと、
本当に心からお詫びをしてクロージングをしたいのに、そのことも難しい雰囲気になり、
代わりに差し出せる言葉が見つからないから、一向にお互いにクロージングのタイミングが
見つからず、なかなか電話を切れないこともたびたびありました。


そこである時から私は、相づちで「申し訳ございません」を使うことを自分で禁止しました。
「申し訳ございません」は最後の最後に取っておかなければいけない言葉なのですから、
一方では「申し訳ございません」の代わりになる相づちの言葉をがむしゃらに探しました。

相づちには『申し訳ございません』と『ありがとうございます』は極力使わない。
いろんな『共感言葉』と『慰労言葉』と『賞賛言葉』を入れ替えて相づちを打つことを
心がけてきました。

今では、我ながらずいぶん心がけの成果が出てきたと思いますが、そのことで
思わぬありがたい副産物が生まれることも数えられないほど経験しました。

それは、「お客様のご事情ならそうおっしゃるお気持ちも・・・」という共感言葉や、
「それではずいぶんお困りになられたのですね~」という慰労言葉や、
「このように率直に言ってくださって・・・」という賞賛言葉を言うことによって、
お申し出者の気持ちが私の方に大股で一歩歩み寄ってくださるのです。
「そうでしょう!そう思うでしょう。まあ、ちょっと大げさに言うたけどね」なんて、
言っていただけた時には、感動さえ湧き上がります。


そんな体験をするうちに、クレーム対応って、お申し出者に低く低く頭を下げて許していただくことよりも、
対応担当者個人に少しづつ心を近づけて、こちらの気持ちの複雑さもわかっていただけることが、
正しい目標なのではないのかと、私たちは目標設定そのものを間違えているのではないか、と思うようになりました。

あなたのクレーム対応担当者としての目標は、なんですか?『許してもらうこと』ですか?
一見そのように思えるかもしれませんが、本当は『わかってもらうこと』が正しい目標設定だと思いませんか?

『わかってもらう』ためには、まず、相手の思いも『わかってあげる』ことからはじめないと、
到底こちらの複雑な思いを理解する気持ちになっていただけるはずがありません。
それならば、『許してもらう』ことが目標ではないのなら『詫びる』ことよりも、
『共感』や『慰労』や時には『賞賛』をすることが優先されるのではないでしょうか。

ぜひ、あなたも『わかってあげる』言葉の引き出しをたくさん持って、
照れずに、堂々とそれらの言葉をお申し出者に差し出してください。

                                       中村友妃子          


【出所・参考文献】
『クレーム対応のプロが教える“最善の話し方”』(青春出版社刊)

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