「貴社のシルクで人工血管は作れませんか?」1本の電話から始まった新規ビジネス
『下町ロケット』。
製造業の中小企業にとって、この言葉にワクワクしない人はいないのではないかと思います。
池井戸潤原作の、太田区の佃製作所を舞台にしたこのシリーズは中小企業ならではの機動力とプライドと、顧客に寄り添う密着軸の可能性を描いています。
そんな『下町ロケット』シリーズの2作目に、『下町ロケット2 ガウディ計画』があります。
この小説は『下町ロケット2 ガウディ計画』は、ロケット部品の開発で経営危機を脱した佃製作所に、心臓病患者のための人工弁の開発依頼が持ち込まれるところから始まります。
心臓病のためにサッカーがしたくてもできないそんな子供たちを何とかして救いたい。
その想いで心を一つにした佃製作所の社員たちが、大企業の圧力や医療業界独特の権威主義を克服しながら、世界初の製品を開発する物語です。
その物語のモデルとなったのが、福井市に実存します。社員数90人、創業75年の福井経編興業(株)です。
同社は経編(たてあみ)という社名が示す通り、ニット生地の生産が本業です。
福井市は、昔から繊維産業が盛んな街で、同社の100台以上の紡織機を設備しています。
ラグビーW杯で日本チームが着た桜のジャージにも同社が生産した生地が使われています。
が、同社の髙木社長は強い危機感を抱いていました。
中国製品との激しい競争の中で、福井の地場産業全体が沈んでいくリスクに直面していたのです。
そんな髙木社長の元に2010年、ある大学教授から一本の電話がかかってきました。
「貴社のシルクで人工血管は作れませんか?」
という問い合わせです。
この問い合わせを受けた同社の髙木社長は即答します。
「できるんじゃないですか」。