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第31話 鄧小平と毛沢東の「戦争」―薄煕来失脚事件研究(3)

中国経済の最新動向

 前回は薄煕来と胡錦濤の間の路線闘争の背景を説明したが、今回は筆者の独自の情報を駆使し、その熾烈な戦いの実態を再現する。
 
 薄煕来と胡錦濤の戦いは次の4つの段階に分けられる。
 
 第1段階(2009年1月~2011年4月中旬)は薄が胡・温に攻勢をかける段階である。この間、薄が「打黒唱紅」(暴力団一掃、革命の歌を歌う)キャンペーンを大々的に展開し、一時的に世論作りに成功した。中央執行部メンバー9人のうち、賈慶林(全国政治協商会議議長)、呉邦国(全人代委員長)、習近平(国家副主席)、李長春(宣伝統括)、賀国強(紀律検査委員会書記)、周永康(司法・公安・武装警察統括)など6人が相次いで重慶を訪れ、「打紅唱紅」を称賛した。異常な「重慶詣で」であった。薄が重慶市書記在任中、重慶訪問は一回もないのは胡錦濤だけである。この事実からも二人の不仲が伺える。
 
 第2段階(2011年4月下旬~11月)は胡錦濤氏の反撃、薄への警告である。先ずは11年4月23日、温家宝首相は中南海の執務室で香港人作家呉康民と面談し、中国が直面する2大リスクを言及した。1つは「文革の遺毒」で、2つ目は「封建の遺毒」である。暗に薄の「文革回帰」路線、個人独裁を批判・けん制した。温首相本人の許可を得て、呉は取材記事を香港の新聞に載せた。温の発言を受けて、執行部メンバーによる「重慶詣で」に歯止めがかけられた。
 
 だが、薄が温首相の警告を無視し、同年6月11日、1000人の重慶市歌舞団を連れて上京。4日間にわたり7つの会場を貸し切りで「紅歌」の大合唱を披露した。薄の行動は翌年に開かれる党大会で中央執行部入りのための露骨な世論作りであり、胡錦濤氏への示威的な行動と見られる。しかし、上述した温首相の警告があるため、今回は中央執行部メンバーが誰も出席しなかった。薄の思惑は見事に挫折した。
 
 薄のこの示威的な行動に対し、胡錦濤も自ら反撃に出る。胡は11年7月1日中国共産党設立90周年記念大会演説の中で、1930年代の党中央の左派路線の失敗を総括した党の決議(1945年)と、文革(1966~76年)の失敗を総括した党の決議(1981年)を持ち出し、薄煕来氏の「文革回帰路線」を党の決議に違反すると暗に批判・警告した。
 
 第3段階(2011年12月~12年3月上旬)は薄が「背水の陣」を敷き、最後の賭けに出る。
 
 11年12月、薄の指示で重慶日報は「重慶詣で」をした執行部メンバー6人を実名で公表し、重慶を訪問しない胡錦濤氏へ圧力をかけ、この行動は中央執行部を分裂させる「公開挑戦状」と見られる。
 
 さらに、12年3月9日、全人代期間中、薄が記者会見で胡の重慶訪問を迫る一幕があった。
 
 第4段階(2012年3月中旬~7月)は薄氏の失脚、「文革回帰」路線の失敗で路線闘争に終止符が打たれた。
 
 今年3月14日、全人代閉幕の日に、温首相が記者会見を行い、重慶市を名指しで批判し、「文革の悲劇を繰り返してはいけない」と意味深長な発言をした。翌日、薄の重慶市書記解任を発表。発表前、重慶市主要幹部はチャーター便で北京に送られ、温首相の前で、「党中央支持か薄煕来支持か」、1人1人態度表明を迫られた。
 
 4月10日、薄の政治局委員と中央委員の職務停止を発表、薄が完全に失脚した。
 
 7月23日、胡錦濤氏は中央党校の省部級(知事・閣僚クラス)研修班で大演説を行い、揺るぎなく鄧小平氏の改革・開放路線を堅持すると、宣言した。
 
 薄煕来と胡錦濤の間の熾烈な戦いの実質は、毛沢東と鄧小平の「戦争」である。つまり毛沢東の文革路線回帰か、それとも鄧小平の改革・開放路線を堅持するかの戦いである。陳希同・北京市書記失脚、陳良宇・上海市書記失脚など無意味な権力闘争と違い、今回の路線闘争は将来、中国がどんな道を歩むかという中国の命運にかかわっている。薄氏の失脚をもって、毛沢東の文革路線への回帰は否定され、鄧小平の改革・開放という現実主義路線は継続することになった。
 
 薄氏の失脚は一時的には中国共産党にダメージを与えるが、長期的視野から見れば、プラスの効果が明らかだ。それはイデオロギー路線への回帰が否定され、改革・開放という現実主義が継続することである。
 
 次回は、なぜ「文革」回帰はいけないか、薄氏の失脚は中国経済にどんな影響を与えるかについて解説する。

 

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