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マネジメント

第3回 『ファミリービジネスの後継者ならば、Wビジョンを描こう』

酒井英之の社長のビジョン実現道場

「どれぐらい先のビジョンを考えたらいいのでしょうか?」

 なかなかビジョンが描けずに悩んでいる後継者から必ず聞かれる質問です。

 

 3年先もビジョンだし、5年先もビジョンです。

10年先もビジョンだし、100年先もビジョンです。

この時間軸によって、描く景色はまるで違います。

 

 私はサラリーマン社長であれば 最低3年、長くて5年先を描けば良いと伝えています。

環境は猛スピードで変化しています。10年先がどうなっているか読むことは、難しいです。

 

 ところが、ファミリービジネス(同族経営)の後継者は違います。

子供が生まれたら、その子に事業承継する時のことを必然的に考えなければいけません。

 

 仮に今日、子供が生まれたとしたら、その子が会社を引き継ぐのは、およそ30~40年先でしょう。

その時、今、自分が経営している会社をどんな会社にしておくべきか、考えない親はいないでしょう。

 

 つまり、社員が考えるビジョンとファミリービジネスの後継者が描くビジョンには、大きな隔たりがあるのです。

 

 よって私がお勧めしてるのは、ファミリービジネスの後継者はWビジョンを持てということです。

事業計画を中心とした5年先のビジョンと、代替わりを意識した長期ビジョンです。

 

代替わりを意識した長期ビジョンとは

 ここで ヒントになるのが石川県の粟津温泉にある創業1300年の法師旅館の考え方です。

 

 現在は46代目の法師善五郎氏が当主を務めています。同社では代々当主は「法師善五郎」と名乗ります。

 

 同社には家訓や家憲のようなものはありません。ただし、46代目は自分が承継するときに45代目から次のように言われたといいます。

 

 「この会社は自分のものだと考えてはいけないよ。旅館も、お金も、株もあなたのものではない。あなたの子々孫々から預かっているものだ。だから、あなたの代で少しでも良くして次の世代に渡すのがあなたの役割だよ」

 

 この考え方を、スチュワードシップ(受託責任)といいます。

つまり、今の会社は子孫から預かった資産であり、それを、責任をもって管理運用し、未来により良い状態で引き継ぐ。

それこそが、今の経営者の仕事だというのです。

 

 この対局にあるのが、以下のような考え方です。

「会社は俺のものだ」

「会社は自分が儲けるためのマシーンであり、道具だ」

「何をしようが自分の勝手だ」

 

 社長がこのような考え方をすると好景気の時、金遣いがすごく荒くなります。

逆に不況が来ると、大切な社員をバッサリ切り捨てます。公私混同が甚だしくなり、心ある社員ほど離れていきます。

つまり経営が好不況次第でブレブレになるのです。

 

 中小企業は、例えるなら軟体動物のようなものです。

小さな呼吸をしながら、環境に応じてプカプカと浮いているような存在で、どんどん流されてしまうリスクを抱えています。

 

 それが、長寿企業になろうとするのであれば、脊椎動物のように、背骨を持たねばなりません。

人間もそうですが、脊椎動物は長生きです。

 

 体の中に芯となる背骨があるから、激しい環境変化の中で踏ん張ることができます。

そして、ブレずに成長し続けられるのです。

 

 会社を未来からの預かり物とするスチュワードシップの考え方はこの背骨のある生き方に似ていると私は考えています。

 

 現在と後継者に繋ぐ未来との間に今の会社がある。

そこにはブレることのない太い背骨が通っている。

こういう目で自分の会社を見れば、自ずとわが社の「あるべき姿」が見えてくるでしょう。

 

事業承継の本質

 例えば、私のクライアントに創業110年を超える鮮魚問屋があります。

同社は現在5代目の社長が経営していますが、その経営理念は「豊かな食文化を創造する」です。

 

 ただ、これだとよくわからないので社長は社員に次のようにして伝えています。

 

「豊かな食文化を創造するとは、『その時代、その時代で一番美味しい魚の食べ方を提案する』ことなんだ。それがわが社の生きる道なんだ。

 

 初代は、魚の行商をやっていた。2代目、3代目は、鮮魚問屋として、市場で仕入れた魚を給食センターに届けた。4代目はスーパーや百貨店で鮮魚店を展開した。

 

 そして5代目の自分は、上記の問屋業や居酒屋の他に回転寿司や居酒屋のチェーン店を経営している。なぜならそれが今、一番美味しい魚の食べ方だからだ。

 

 これから6代目、7代目がこの会社を継いでいくだろう。その時、彼らが鮮魚店や回転寿司をやる必要はない。

それよりも、その時代に合った美味しい魚の食べ方があるのなら、その業態を開発し、お客様に提案すればいい」

 

 同社では、現在6代目が経営者になるべく修行をしています。

彼が現事業を拡大するのか、新業態を興すのか、そこは分かりません。

 

 が、経営理念が1本、背骨のように同社を貫いているので、この考え方に従っていけば、今後何十年経っても間違いない経営をするでしょう。

 

 つまり、事業承継の本質は、事業の承継ではなく経営理念の承継なのです。

その経営理念に共感できるのであれば、Wビジョンの長期ビジョンは、先代が大切にしていた経営理念に従って考えればよいでしょう。

 

 あなたの会社には共感できる経営理念がありますか?

それがあれば大丈夫です。

それを背骨と考えましょう。

 

その背骨に則った長期ビジョンを描きましょう。

そしてもう一つ、3~5年先の未来をこうするぞ!

という、強い意思のこもった短期ビジョンを描きましょう。

 

Wビジョンをもった後継者は、腹が座ります。

気持ちが穏やかになり、人の話を聴くようになります。

そして、より迅速に、正しい意思決定ができます。

是非、あなたもWビジョンを描いてくださいね。

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