私は、常にキャッシュ・フロー経営を考えなさい、と申し上げています。キャッシュ・フロー経営とは、つまり、使えるお金を増やす経営です。
いまだに、このキャッシュ・フローを理解されていない経営者にお会いします。
福井専務の例
福井専務(仮名)は、30代前半、福井商事(仮称)の2代目経営者として、経営の勉強をしながら、日々の実務にあたっています。
その福井専務の相談は、次のような内容でした。
「当社は、不動産事業を営んでおり、そこまで商いは大きくありません。ただし、安定的に利益は出せております。しかし、会社の資金はといいますと、これが全くたまっておりません。後継者として、一応、財務、税務も勉強していますが、なぜ、お金がたまらないか、どこに問題があるか、いまいち、掴めずに悶々としています。客観的な視点で、何が問題か、アドバイスを頂きたいです。」
3つのキャッシュフロー
「なぜ、利益が出ているのに、お金がたまらないのか?キャッシュフローというのは、実は、3種類あります。
一つ目は、営業キャッシュ・フローです。
これは、簡単に言うと、税引後利益+減価償却費です。ここは、福井商事の場合は、プラスなわけです。福井専務は、営業キャッシュ・フローしか、考えておらず、だからこそ、『利益が出ているのに、なぜお金が増えないか?』悩んでいたのです。
しかし、真のキャッシュ・フローを考える場合は、このほかに、投資キャッシュ・フローと財務キャッシュ・フローを考えてください。
投資キャッシュ・フローは、例えば、固定資産を売った、買った、保険に入った、解約したなど、本業以外でお金が増えたか、減ったかをチェックします。福井商事の場合は、これは、±ゼロです。
3つ目は、財務キャッシュ・フローです。
これは、銀行からお金を借りた、返した、あるいは、配当金を支払った、といった本業でもなく、投資でもない、お金の動きを表します。」
「福井商事の場合は、営業キャッシュ・フローは黒字でも、財務キャッシュ・フローは赤字でした。だから、結果として、お金が増えずに、減っていたのです。
財務キャッシュ・フローが赤字ということは、借入金の返済で、たくさんのお金が出てっているということです。つまり、借入金の返済期間が短いということです。」
「はい、言われてみれば、確かにそのとおりです・・・」
「だから、リファイナンスをしないといけないでしょうね。リファイナンスというのは、簡単にいえば、借入金の返済期間を伸ばしてもらうということです。」
B/Sにも着目せよ
ちなみに、営業キャッシュ・フローは、税引後利益+減価償却費と書きましたが、厳密には、この2つだけでは決まりません。B/Sにも着目する必要があります。
例えば、
① 売上は上げて、利益もあがった、でも、売上代金が回収できていない
② 原材料をたくさん買った
③ 製品をたくさん作った、けど、売れなかった
このような場合、キャッシュ・フローにどのような影響を与えるでしょうか?
①:利益は計上されていますが、代金が未回収であれば、お金は増えません。当たり前の話ですね。
②③:これは、勘違いしている方が多いですが、利益に影響するのは、原材料を使って製品をつくり、その製品が売れたときです。
このときに、はじめて、原材料あるいは製品は、「売上原価」となり、P/Lで計上されるのです。
例えば、期末ぎりぎりに、原材料を買っても、利益への影響は、いっさいありません。でも、確かに原材料代金を支払っていれば、その分、現金は減りますね。
私が申し上げたいことは、売掛金が回収できなければ、お金は増えないし、在庫がたくさん増えれば、いくら利益が出ていても、お金は減るのです。
こういった、キャッシュ・フローを把握しておかないと、本当の意味で、現金がいくら増えた、減った、というのはわかりません。
これまでの話をまとめると、キャッシュ・フローをよくしようと思えば、P/Lだけでは不十分で、B/Sをよく理解しなければならないのです。