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故事成語に学ぶ(4)君子は交わりを絶ちても悪声を出(い)ださず

指導者たる者かくあるべし

君子の条件
 リストラで組織を追われた人間は、元いた組織に恨みを抱く。ましてや重責にあったものが、讒言(ざんげん)によって身に覚えのない噂を言い立てられ組織を追われたとなると、その遺恨はより深いものとなる。組織を離れた後、悪口を言いふらすのが人情だ。 
 表題の故事は、「できた人物というものは、絶交したとしても相手の悪口は決して言わない」という意味だ。できるようでいて、なかなかどうして現実には難しい。
 この名言を吐いたのは、紀元前の中国戦国時代、北方の燕国を追われた楽毅(がくき)という勇将だった。
 

 楽毅のリストラ対処
 楽毅は、北方の小国、燕の昭王にその才能を見出され、仕官先を変えた。昭王は、国家運営の要諦は人材にありとして、四方から積極的に賢者を募っていた。隣り合う大国の斉にかつて猛攻を受けた恨みを晴らそうと躍起になっていた。しかし、軍事力、経済力の差は歴然で、楽毅は、「それは無謀」と昭王を諌め、周辺諸国の連合成立に奔走する。五か国連合軍を率いて斉に攻め入り、完全制圧の一歩手前まで追い込んだが、ここで戦線は膠着した。
 ちょうどそのころ昭王が没した。跡を継いだ恵王は太子時代から楽毅と反りが合わず、更迭の機会をさがしていた。何かと口うるさい先代のお気に入りが邪魔になるという、いずこの社会でもある代替わりのトラブルだ。
 追い込まれていた斉は一計を案じる。燕国内にスパイを送り込み、こんな噂を振りまいた。「斉がなかなか陥落しないのは、楽毅が斉と通じているからだ。斉の国民は、楽毅に替えて有能な将軍が送り込まれないかとヒヤヒヤしている」
 この策謀に恵王はまんまとはまった。「そら見たことか」と、楽毅を召喚する。「帰国すれば冤罪をかぶされ殺される」と危機を感じた楽毅は、自らを信頼しない恵王を見限って趙国へ亡命した。新任の将軍は無能で、斉は反抗に転じて燕軍は敗れ去る。

 

 人材を失ってからでは遅い
 楽毅が恨みから燕に攻め入ることを恐れた恵王は手紙を送り、「貴殿の更迭は側近の助言に従ったまで」と言い逃れした上で、楽毅の亡命をなじった。楽毅は返信する。
 「賢君は、人事を行うに私情を挟まず、功績と能力を正当に評価するものです」と書き出したあと、自分を取り立てた父の昭王を称賛し、こう続けた。
 「君子は交わりを絶っても相手の悪口は言わず、国を去っても言い訳はしない」 
 部下を信用できず人材を尊重しないリーダーは、貴重な人材を失い失速してゆく。燕はこれをきっかけに北方に逼塞し、二度と中原に躍り出ることはなかった。

 

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

※参考文献
『世界文学大系5B 史記★★』司馬遷著、小竹文夫・小竹武夫訳 筑摩書房
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫
『中国古典名言事典』諸橋轍次著 講談社学術文庫

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