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- 第114回「世界初のビジネス書」(著:ベネデット・コトルリ、編:アレッサンドロ・ヴァグナー)
日本勢の連日の金メダル獲得に盛り上がる東京五輪。
選手たちの奮闘に刺激を受けて、
金メダルに該当するような特別な一冊を
紹介したいと思います。
それは
『世界初のビジネス書』
(著:ベネデット・コトルリ、編:アレッサンドロ・ヴァグナー)
“世界初”というタイトルが気になった方がいると思いますが、
これは誇張でも、ジョークでもありません。
本書の元になる『商売術の書』が書かれたのが、
1458年、イタリア。
今から500年以上も昔のルネサンス期のことです。
当時の人たちが、ビジネスについて、一体どのようなことを考え、
何を大事にしていたのか?
そして、現代に生きる我々と、どんな違いがあるのか?
これを知るだけでも、大きな意味を持つと言えますし、
本書の最大の読みどころといっても過言ではありません。
著者のベネデット・コトルリ氏は、イタリアを舞台に大活躍した、
非常に多彩な教養人。
高級織物などを取り扱う商人で事業家、役人や外交官でもあり、
さらに書物をも著すなど、華々しい経歴の持ち主です。
中世のキリスト教社会では、聖職者や軍人らと比べると、
商売人の地位は圧倒的に低かったものの、
コトルリ氏は「商売こそ最も高貴な技芸である」と語り、
人類の発展を支える唯一の手段であると宣言します。
そこで、商人を志す者に対して、教養と幅広い哲学を学ぶこと、
実際に商売を経験することを強く推奨。
本書はコトルリ氏の教えが詰まった『商売術の書』の中から、
ビジネスにおける重要箇所を”15の黄金則”という形で、章立てして抜粋。
仕事の心構えや態度、商取引の実務、経理や財務の知識、
後継者の育成、家庭生活や資産運用まで、
時代を超えて役立つ、示唆に富んだ内容となっています。
また、セネカ、ポエティウス、アリストテレス、ウェルギリウスら
古代ギリシャ、ローマ時代の偉人の名言が
随所に引用されている点も必見です。
参考までに、以下が15の黄金足になります。
1 正しい足で出発するために、可能なことはすべて行え。
2 自分自身だけを信頼せよ。
3 常に、困難と苦悩に耐える準備をせよ。
4 あなたの技芸に専心せよ。
5 常に質を追求せよ。
6 常に正確で整理された帳簿を所有せよ。
7 金融を理解し、それを活用することを学べ。
8 共同経営者を尊重せよ。
9 契約を守れ。
10 あなたの性格。
11 教養がすべてであり、過小評価してはならぬ。
12 公的な存在であることを学べ。
13 息子たちを教育せよ。
14 家族を大切にせよ。
15 大地に投資せよ。
経営者、リーダーの琴線にふれるものがここにあるのが、
お分かりいただけるかと思います。
そして、15の黄金則を具体的に読み進めることで、
古代から受け継ぐ英知を体得することができます。
ビジネス書の原点と言うべき、歴史的一冊、今すぐどうぞ!
尚、本書を読む際に、おすすめの音楽は
『中世ルネサンス音楽への招待状』(演奏:ウエルガス・アンサンブル)
です。
中世・ルネサンス音楽の専門楽団ウエルガス・アンサンブルによる
ベスト盤とも言える傑作選。
付属の解説書が充実していて、当時の様子がイメージできるのも嬉しいところ。
本書が書かれたルネサンス期に想いを馳せながら、
合せてお楽しみいただければ幸いです。
では、また次回。