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第147回 五浦温泉(茨城県) 岡倉天心が愛した絶景とかけ流し温泉

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■県内では貴重なかけ流し温泉

 茨城県で有名な温泉地はどこ? このように問いかけられても、地元の人でないかぎり簡単には思い浮かばないだろう。

 日本には全国津々浦々に温泉が湧いているが、温泉資源が豊富な地域とそうでない地域に分けられる。残念ながら茨城県は、温泉が乏しい都道府県のひとつに数えられる。

 もちろん県内各所に温泉は湧いているが、歴史ある湯街が形成されているような大きな温泉地は存在しない。しかも、源泉の湧出量が少なく、沸かさなければいけない低温の温泉も多い。そうなると、必然的に湯を循環させ、使いまわさなければならない。源泉かけ流しの本格派の温泉を求める人にとって、茨城県の温泉地はなかなか候補に入ってこないのが現実である。

 しかし、そんな茨城県にも、源泉かけ流しを楽しめる温泉旅館がある。しかも、絶景の露天風呂をもつ。北茨城の五浦(いづら)海岸に位置する「五浦(いつうら)観光ホテル」である。

■太平洋一望の「絶景温泉」

 五浦海岸は、海に面した大小の入り江と松林が美しい風光明媚な土地として知られ、「関東の松島」と呼ばれることもある。画家の横山大観は松と日の出、月を好んで描いたとされるが、そのモデルが五浦海岸だという。最も景観がすばらしい断崖には、日本近代美術の父、岡倉天心ゆかりの名勝・六角堂が立つ。

 五浦海岸をいたく気に入った天心は、この地を日本美術家の養成、啓発活動の拠点とし、1905年に六角堂を構えた。わずか四畳半ほどの空間には何もなく、天心はひたすら思索にふけったという。さらには日本美術院を五浦の地に移し、天心のほか、菱田春草、下村観山、木村武山といった画家が家族と一緒に移り住んで制作に励んだ。五浦海岸は、日本近代美術の発祥地として知られる。

 六角堂の近くにある五浦観光ホテルは、「本館」と別館の「大観荘」に分かれている。両方に温泉が引かれているが、「大観荘」の露天風呂は絶景の露天風呂が自慢である。

 浴室は崖の上にへばりつくようにつくられている。広々とした大浴場を抜けて露天風呂へ。外に出る瞬間、ふわっと吹きつけてきた海からの風は潮の香りがする。

 露天風呂の向こうには、太平洋の大海原が広がっている。東屋の屋根と最低限の囲いがあるのみで、開放感は抜群である。入り江の岸壁に生える松の木の緑も風景にアクセント加えてくれる。まるで一枚の絵のようだ。日の出の時間には、水平線から顔をのぞかせた太陽の光による幻想的な光景が広がるだろう。

■うぐいす色の濁り湯

 眺望がすばらしいだけでなく、驚いたことに湯の質も三つ星級である。うぐいす色の湯が、100%かけ流しにされている。泉質はナトリウム・カルシウム‐塩化物泉。塩分が特徴のよく温まる湯だ。茨城県内ではトップクラスの湯使いと言えるだろう。

 海を望む絶景温泉は各地にあるが、多くは景色優先で、温泉の質は後回しにされがちである。景色のいい場所に湯船をつくろうと思えば、無理して長い距離を引湯しなければならない。結果として温泉の鮮度は失われ、循環ろ過によって個性を失っていく。その点、五浦観光ホテルは、絶景と温泉、両方とも極上。貴重な存在といえる。

 火照った体を冷まそうと、湯船の縁の岩に腰かける。潮風が心地よい。太平洋を独り占めした気分である。岡倉天心は六角堂の中で海を眺めながら思索にふけったといわれるが、温泉に浸かりながらこの景色を眺めていると、じっくり自分自身と対話したくなる。

 なお、「本館」の大浴場は趣が異なる。滝が流れ落ちる庭園露天風呂は、心落ち着く和の雰囲気が魅力である。こちらもまた、思索にふけりたくなる上質な空間である。

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