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第102話 「攻めと守り」、両面の旗を!

北村森の「今月のヒット商品」

皆さん、あけましておめでとうございます。2026年もどうぞよろしくお願いします。今年も全国各地を訪ね、ヒット商品の芽を探ってまいります。

2026年最初の原稿でお伝えしたい事例は、まさにこの年初から本格稼働する、ある企業の生産拠点の話です。

日本のウイスキーというと、1990年代から2000年代半ばくらいにかけての時期、元気を失い、いっときは「ウイスキーなど時代遅れで、国内からはもうほぼ消えてしまうのではないか」とすらささやかれるほどの市場縮小傾向にありました。まさにウイスキー冬の時代でした。

そうしたなか、あえて新たにウイスキー蒸溜所を立ち上げたのが肥土伊知郎さんという人物でした。2004年にベンチャーウイスキーを設立。ウイスキー逆風下にありながら、酒造免許の取得に奔走し、2011年には、埼玉県の秩父蒸溜所での蒸溜を経た初の3年熟成ウイスキーを発売。即座に完売を記録しました。「イチローズモルト」の名とその味わいは、いまや国内外に広く知れ渡っており、肥土さんはジャパニーズウイスキー復活の立役者ともいわれています。

かつてはヒトケタ台にまで落ち込んでいた国内ウイスキー蒸溜所の数は、現在では100を大きく超えるところまで急増しているようですが、ここまでの活況には。肥土さん率いるベンチャーウイスキーの奮闘が大きく影響していると感じさせます。

 

 

そのベンチャーウイスキーですが、昨年、北海道の苫小牧に新たな蒸溜所を設立し、今年初めから本格稼働を始めるといいます。

ベンチャーグレインという関連会社を立ち上げて、苫小牧蒸溜所を完成させたのですが、その企業名が示す通り、ここはグレーンウイスキーの製造拠点となります。グレーンウイスキーは穀類由来の蒸溜酒であり、モルトウイスキーとブレンドするために用いられることが多い分野です。

これまでベンチャーウイスキーでは、ブレンデッドウイスキーに使うためのグレーンウイスキーを主に輸入していたといいますが、この先はわざわざみずから製造してしまうという話なわけです。

 

 

どうして多額の投資に踏み切ってまで、グレーンウイスキーのための蒸溜所をつくったのか。肥土さんに会って尋ねてみました。順にお伝えしていきましょう。

まず、最も大きな要因は、攻めと守りの両面に臨むためだったといいます。どういうことか。

攻めというのは「秩父蒸溜所では、やりたいことをほぼやり尽くせたが、グレーンウイスキーづくりには着手していなかった」というところにあるという話です。そこに挑もうという覚悟の現れが、苫小牧蒸溜所の立ち上げとなった。

一方の守りに関しては「グレーンウイスキーの確保のため」だったと説明します。コロナ禍での物流混乱時には調達に難儀したそうですし、また、世界情勢を鑑みると今後に向けての不安要因もある。であれば、自分たちでつくってしまうという判断こそが防御策となるということですね。

 

 

でも、秩父から遠く離れた北海道の苫小牧を新拠点に選ばなくとも…という疑問はまだ残ります。これはなぜだったのでしょうか。

肥土さんは「ウイスキーの神様に導かれた気がします」と笑います。どう導かれたのかというと、「私が求めていたすべての条件が、この苫小牧には揃っていた」らしい。

具体的には、良質の水、貯蔵庫を拡張できる広大な土地、北米から穀物が届く港。また、新千歳空港から遠くない位置であり、首都圏からのアクセス面でも利便性が一定に確保されている。そのうえに、苫小牧の周辺にはトウモロコシ畑があり、地元産の穀類を用いたグレーンウイスキーづくりも視野に入れられます。最後は酪農家の存在だったそう。ウイスキーをつくった後の残渣を渡せば餌に使ってもらえますからね。こう聞いていくと確かに「すべてが揃っている」と表現できますね。

攻めと守りの両面というのはウイスキーづくりでは欠かせない要素だと、肥土さんはいいます。そうですね、ウイスキーは熟成に時間のかかるお酒であり、原酒をしっかりと製造してそれを寝かせるという取り組みには、経営上、攻めの要素も守りの要素も同時に内包します。

ベンチャーウイスキーはそうした側面を踏まえ続けてきたからこそ、今回の新たな蒸溜所立ち上げを決断できたのかもしれない、と私は感じました。

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