
ビジネスの現場において、「人的資本経営」や「健康経営」という言葉が日常的に語ようになって久しいです。従業員を単なる労働力ではなく、価値を創造する「資本」として捉え、その心身の健康や働きやすさに投資していく――。この考え方は、いまや企業の持続可能性を測る重要な指標となっています。
多くの企業がさまざまな健康増進や生産性向上の施策に取り組む中、もう一歩踏み込んで「人生の大きな揺らぎ」にいかに向き合っていくかという点が問われ始めています。その最たるものが、突如として訪れる病、特に「がん」の宣告への対応です。
厚生労働省の統計などでも示されている通り、がんは長年にわたり日本人の死因の第1位であり続けており、現在では国民の2人に1人が生涯のうちにかかると言われるほど、誰にとっても非常に身近な疾患となっています。
今回は、「がんと向き合う従業員を支える企業のあり方」から、真のウェルビーイング経営の本質を探ってみたいと思います。
「仕事か、治療か」という二者択一からの解放
医療技術の進歩により、がんは「不治の病」から「共生しながら働く病」へと変わりつつあります。しかし、厚生労働省や関連機関の調査データによると、がんは診断されたことを理由に退職してしまう人の割合は、調査や雇用形態によって幅はあるものの、おおむね20%から35%程度(およそ3人に1人から5人に1人)と言われています。「仕事を続けながら治療を試みた結果、体力的に難しくなって辞めた」というケースだけでなく、「がんと診断されたショックや、治療に専念しなければという思い込みから、治療が始まる前(または初期)に自ら仕事を辞めてしまう」ケースも多いとされています。
つまり、当事者が直面する「仕事が続けられないのではないかという不安」「これまで通りのパフォーマンスが出せない自分への焦り」「周囲に迷惑をかけてしまうのではないかという罪悪感」は、今もなお過酷なものです。
真のウェルビーイングとは、常に万全であることだけを指すのではありません。不調や困難の渦中にあっても、自分らしく尊厳を保ちながら社会と繋がり続けられることこそが、その核心であるはずです。そして、先進企業は今、そのための確かな基盤となる「制度」を次々と整えています。
充実する企業の「両立支援制度」
今日、多くの先進企業では、がんの治療と仕事を両立させるための具体的な制度が非常に手厚く用意されています。
例えば、富士通では、時間単位の有給休暇やテレワーク、フレックスタイム制を組み合わせることで、体調や通院のスケジュールに合わせて柔軟に働ける環境を整備しています。また、オリンパスでは、全国のどの事業所であっても同様の高いレベルで検診や医療サポート、両立支援を受けられるよう、全国100箇所以上の医療機関とネットワークを構築してインフラを整えています。
さらに、伊藤忠商事では、国立がん研究センターと提携し、予防から治療、復職までを一貫して支える仕組みをつくり、「社員の健康は会社の資産であり、病気になっても会社が守る」というメッセージを形にしています。
このように、まずは安心して治療を受けられるためのハード面・制度面がしっかりと固められつつあるのが、現在の先進的なビジネスシーンの実態です。
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