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- 第87回「利益確定を早まる投資家の心理とは」
昨年6月に20,900円台に乗せた日経平均株価も、現状は15,000~17,000円の間の一進一退で先進国の株式市場の中でも出遅れが目立つ。市場動向が不確実性を高める中では、購入した株式や投資信託が一定の値上がりをすると、中長期の財産形成目的で資産運用をしていても、今後の値下がりを懸念して僅かな金額でも利益確定を急いでしまうことがある。その後、大きく値上がりして悔しい思いをするような失敗、儲け損ないはどうして起きるのか?投資家心理の研究結果を見てみよう。
投資家の金融行動を研究する学問に「行動経済学」がある。生身の人間としての投資家を研究して、その行動の特徴から課題や対策を検討するもので、リーマンショック以降、特に注目されてきた。伝統的な経済学が、「市場は効率的で人間は合理的な行動をする」という前提に対して、行動経済学は「市場は必ずしも効率的ではなくてゆがみやバブルも生じ、人間は非合理的な行動もする」という視点が特徴だ。
その研究から得られた個人投資家が陥りやすい問題行動の一つに、「利益確定が早い」という傾向がある。その反対に「損切りをためらって傷を大きくする」という欠点も挙げられている。買付けた個別株の株価や投資信託の基準価格が上昇して利益を確定したくなることがある。反対に予期しない材料が飛び出して、株価などが下落して将来の回復が難しいと思うこともある。こんな場合に冷静な判断ができるように投資の心理を理解しておくことが必要だ。
投資家心理を分析した結果、投資の利益や損失に対する私たちの主観的な喜びや悲しみの大きさを定量的に説明することが可能になった。これは『価値関数』と呼ばれるもの。そこでは、『同じ金額であれば、投資家が損失により受ける悲しみや痛みの心理は、利益から受ける喜びの心理に対して2倍から3倍ほど大きく感じる』という理論で説明される。この考えは、行動経済学で最も有名な『プロスペクト理論』と呼ばれるもので、当然ながら、「投資家には損失回避願望がある」ことも実証している。
例えば、1,000円で買った株式が1,100円に値上がり後、さらに1,200円に値上りした場合と1,000円に値下りした場合があるとしよう。どちらも1,100円からの上下の値動きは100円だ。しかし、この理論によれば100円値上がりした喜びよりも100円値下がりした悲しみは、約2倍から3倍も大きく感じるという意味になる。この理論によれば、一旦値上がりした株式は、値下がりした時の悲しさや悔しさを考えれば、早めに利益確定したいという気持ちに結びつくと気づく。一方で、株式が値下がりした場合には、損失確定を嫌って保有継続し、傷口を拡大するような選択をすることにもなる。
日本も世界も金融市場の変動率が拡大し、将来の値動きを予測することは困難だが、ご自分でじっくり研究した企業や銘柄の将来性には自信を持って頂きたい。そして、「小さな値上りでも利益確定が魅力的に感じるのは心理的要素が大きい」ことも意識して、その企業や銘柄の真の実力を冷静に、主観的心理的でなく、客観的科学的に判断して頂きたい。
以上