少子高齢化や経済成長の鈍化により、わが国の公的年金制度の維持が難しい状況にあることは周知の事実。しかし、6月に発表された『公的年金の財政検証』は、年金制度の将来について誠に衝撃的な内容となった。今後、年金を受給する50歳代以下の国民は、自分の老後設計に関して厳しい見直しを迫られることになるだろう。
5年に一度行われる公的年金の財政検証。従来の検証では「100年間安心プラン」と発表されたものの、積立金運用利回りを実現不可能な4.1%に引上げるなど楽観的過ぎる見通しが既に破綻していた。今回の財政検証の結果からは、将来の公的年金の支給水準が現役世帯の収入に対して占める割合(『所得代替率』という)を50%とする政府の公約達成が、非常に困難になったことがわかる。
もう少し詳しく見てみよう。今回の検証では計算の前提条件、すなわち女性や高齢者の就労がどの程度進むか?という労働力の状況、生産性の向上、物価や実質賃金上昇率と実質経済成長率や運用利回りを変えた8つのケースを設定して、2050年頃の厚生年金を試算している。アベノミクスが成功して高成長が実現した最も楽観的なケースでは、所得代替率は何とか50%を超える。しかし、マイナスの経済成長で労働力も不足するケースでは、約40年後に所得代替率は40%を割り込むとの試算も示されている。
政府が年金を含む社会保障制度改革を待ったなしに推進すべきことは勿論、国民自身がこれまでに描いた老後設計を大きく見直さねばならない事態といえる。これから始まる社会保障制度改革は、給付が減って負担が増える『大きな痛みを伴う改革』になる。例えば、受給開始年齢の「現行65歳から世界標準の67、68歳への引上げ」は避け難い。年金保険料の納付期間も60歳から65歳に延長される可能性が非常に高いことなどだ。
政府は改革を断行して『所得代替率50%』公約を実行してもらいたい。一方、従来の改革や成長戦略が失敗した経緯から判断すれば、政府の楽観的見通しに個人の老後設計を託すことは、将来に禍根を残すことになり兼ねない。公的年金の所得代替率を40%と見て、不足分を自助努力の資産運用で補うような堅実なマネープランが重要になってきた。
今年から開始したNISA(少額投資非課税制度)は、その口座の65%程度は60歳以上のシニア層が開設していて、国民の財産形成のために若年層へのNISA拡大が重要課題であった。年金財政の検証結果は、50歳代以下の国民に老後設計に関しても自助努力の重要性を再認識させることになった。日本経済も公的年金制度の将来もまさに正念場だ。
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