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- 第92回「相続対策の土地活用と空き家問題」
相続税の基礎控除が40%も減額されて、物故者に対する相続税の課税対象者割合が高まり、相続対策ビジネスが大流行である。特に時価に対して相続税評価額が低く算出される不動産を活用した対策セミナーは、参加者で押すな押すなの大盛況というところもある。預貯金はマイナス金利の下で金利収入はほぼゼロであるが、アパート・マンション経営ならば数%の利回りがあり、そのうえ相続税対策になるなら一石二鳥という訳だ。
5年に一度実施する調査で総務省が発表する住宅・土地統計調査によれば、2013年10月時点で国内の住宅総数に占める空き家の割合(空き家率)が、13.5%と過去最高を記録した。実数として820万戸と全国的に7戸に1戸は空き家である。ところが、将来の予測では2033年に2136万戸、空き家率35%という数字が発表されている。住宅という大きな区分でこの数字なのだが、貸アパートという区分で見れば、既に東京23区内でも空き家率は30%を超えてきている。
相続ビジネスにおける有力な節税対策の一つとして、遊休地にアパート・マンションを建築して相続財産評価を減額する方法がある。資産運用の一環と相続対策を兼ねて、新たに建築されたアパートを土地建物一体で購入するケースもある。竣工当初は満室でも、年数が経過して老朽化が目立つと空き家率も急増するものだ。甘い見通しに基づく建築計画は、不動産経営そのものを危うくして、結果として相続税の節税効果以上に処分した時に売却損失を生じるおそれがある。不動産経営の採算性に関しては、一層厳しい目を向けて計画しておきたい。
また、人口減少が進む地方都市では『コンパクトシティ計画』が進められて、周辺の戸建て住宅から都心の高層集合住宅に住民の移転を促す政策が採られるようになった。人口流入が続き再開発が起きる東京など大都市圏と地方中核都市では、都心部で新たに建設されるマンションに職住近接を望む若年層や学生など単身者需要が底堅くあり、周辺部にある築年数の長いアパートの競争力は厳しくなる一方に見える。
今後も全国的に単身世帯の増加が確実であっても、中間層以上の所得者は利便性や居住空間の快適さに関して妥協しない傾向が強い。このような厳しいユーザーに選択されて将来も競争力を維持し続ける物件なのかどうか、借主の立場になって確認することが重要である。相続税の節税目的は大家の自己都合であって借主の利害に関係ない。これから検討する方は、上記の視点から建築後の中長期的な稼働率をしっかり見極めて頂きたい。
以上