震災と原発の放射能漏れ事故による影響で、あらゆる業界に大きな需要減が起こっている。
4月5日発表の帝国データバンクの調査でも、
77.9%の企業が震災による影響を受け、57.6%が需要減少に直面していると答えている。
「自粛」なのか「委縮」なのか、他人を気にしての「他粛」なのか、
春の花見も例年のように盛り上がらず、東京では5月の浅草神社の「三社祭」も戦後初めて中止になった。
また、夏の東京湾や横浜港をはじめ関東のほとんどの花火大会が取りやめとなり、
歓送迎会や結婚式も続々と中止・延期になっている。
原発への懸念も長期化は必至だし、そろそろ収まるだろうと思っていた地震がいつまで経っても収まらない。
東北・関東地方では、「余震」というより、「続震」と呼ぶべき、
M(マグニチュード)6~7クラスの大きな地震が続発している。
東日本大震災が起こった3月11日から1か月間に起ったM5以上の余震は実に400回を超える。
3月に発生したM6以上の地震は77回を数え、過去3年の月平均の約50倍に上る。
さらに、計画停電はいったん終わったものの、夏場には再び大規模な電力不足が顕在化することは明らかで、
電気の大口需要家は、7~9月の午前10時~午後9時の使用電力を最大25%、
小口需要家は20%、一般家庭15~20%削減することを義務づけられる。
そんな≪震災恐慌≫≪原発恐慌≫≪節電恐慌≫に打ち勝つにはどうすればいいのか?
被災地での災害復旧や原発事故と同様に一筋縄で片付く問題ではない。
しかし、全国各地の企業が手探りでさまざまな対策を講じている。
その中で一定の効果を生んでいると思われる手法をご紹介したい。
また、それらは逆に、どの企業も考えていることなので、
そのサポートをすることが、新たなビジネスにもつながる。
被災地のためにも後ろ向きではなく、前向きに経済活動を活発化していくべきだ。
問題の長期化を覚悟しつつ、地道に取り組んで行かねばならない。
◆固定費を圧縮せよ
会社が倒産してしまっては、元も子もない。
雇用も守れず、税金も払えず、被災地のためにも、日本のためにもならない。
今は非常時である。背に腹は代えられない。
見栄や義理や恥や外聞を捨てて、少しでも固定費をカットすべきである。
店舗やオフィス、工場が賃貸物件であれば、賃料を下げる交渉をすべきであるし、
収益予想に見合わないようであれば、より安価な所に移転を考えるべきだ。
知人の飲食チェーンの経営者も、彼が苦労しながら創業した最初の店で彼自身思い入れのあった店舗を、
リーマンショック後に売上が落ち赤字に陥っていたところに震災が来たのを機に閉店した。
社内の士気の低下を心配していたが、社員の多くは、それによって赤字が解消され、雇用が維持されることを
よろこんでいる。
借り入れがあれば、銀行などの金融機関に金利の減免や繰り延べをお願いすることも考えるべきであるし、
場合によっては、仕入先にも率直に相談しなければならない。
しかし、何よりも大切なのは信用だ。
値下げの交渉は、こちらから頭を下げつつ、誠実かつ紳士的に行わねばならない。
たとえ継続契約をお断りすることになっても、
「また、お世話になる機会もあろうかと思います。御社のますますのご隆昌をお祈りします」と、
こちらが購入している側であっても、決して高圧的になることなく、誠意を尽くすことが次につながる。
状況次第では、賞与や給与のカット、リストラもやむを得ないであろう。
だが、企業は人なり。最後まで守るべきは雇用であることは言うまでもない。
◆省電力化、省力化を進めよう
たとえ放射能漏れに対する懸念が完全に払拭されたとしても、東京電力管内における電力不足は解消しない。
東京電力の電力供給能力は、震災前の約6割に低下している。
福島第1・第2原発の運転再開が絶望的となった今、最低でも数年間、電力不足は恒常化する。
そのため、政府と東電は、休止していた火力発電所の再稼働、IPP(電力卸供給事業者)からの電力買い入れ、
工期の短いガスタービン発電所の新設など電力再生に懸命だ。
しかし、それらの整備をいかに急ピッチで進めても、夏場の需要を賄い切れるとは限らない。
現代社会のインフラの中のインフラである電力の不足は、
鉄道や道路の信号といった交通、物流、ATMなどの金融システム、製造、小売などあらゆる経済活動を大きく
制限する。
しかも、燃料代の高騰と復興経費の負担もあり、今後、電気代が値上がりする可能性は高い。
長期戦に備えて、少しでも省電力化を進めねばならない。
具体的には、短期的には費用がかかっても、照明を白熱灯や蛍光灯からLED(発光ダイオード)に換えたり、
使用電力の少ないヒートポンプをはじめとする技術を活用すべきである。
一方、原発事故による放射能汚染を懸念して、数多くの外国人労働者が日本を去ってしまった。
彼らの帰国によって、製造、外食、IT(情報技術)、農業など幅広い分野で人手不足が問題になっている。
震災後、ブラジルに一時帰国していた、サッカーJ1「ベガルタ仙台」のマルキーニョス選手が
リーグ戦再開に向けて関東での合宿に戻っていたが、結局、退団した。
彼の行動を見ても明らかなように、帰国した外国人も少しずつ戻りつつはあるが、
海外における地震と放射能に対する恐れも長期化は避けられず、
震災があった3.11以前の状況に戻るには、まだ数年はかかりそうだ。
デフレが進行していたところに、震災による消費不況でさらなる「超デフレ状態」に突入した今、
そのすべての穴埋めを日本人労働者だけで補うことは難しい。
可能な限り、機械化を行うなど、人の力にたよらない省力化が急務である。
◆新たな需要を掘り起こせ
震災後、国内外の旅行者からのキャンセルで、全国の宿泊施設は壊滅的打撃をこうむった。
しかし、西日本のホテルは、ほぼ同時に、東日本からの予約が続々と入った。
アメリカ、ドイツ、フランスをはじめ27カ国が都内の大使館を一時閉鎖し、西日本に移転した。
また、SAP、アウディ、H&M、イケア、AIGなどの外資系企業は、一時的に西日本に日本ブランチの
本社機能を移管。
現在も京阪神、広島、福岡、長崎など西日本に移ったままの大使館や企業も多い。
外資系企業幹部などの疎開需要によって、大阪のホテルが東京より1泊1~7千円高い状態が続いている。
また、修学旅行や企業の研修会の行き先を西日本に変更する動きも相次いでいる。
さらに、東京電力管内の夏の電力不足対策で、経済産業省は、
消費活性化と「電力需要の西日本シフト」を図れると、「西日本への家族旅行」の呼びかけを始めた。
旅行会社や航空会社も、稼ぎ時である夏のバケーションの売上を維持すべく、
急遽、西日本に向けた旅行商品の開発とPRにシフトしつつある。
また、突然の停電に備えて、新聞社が西日本で印刷できる体制を整えたり、
企業がバックアップオフィスを設置する動きが活発化し、関西の地価上昇期待が高まっている。
こういった新たな需要は、旅行業界、不動産業界における地域シフトに留まらない。
部品や素材が不足して困っている企業が、同様の製品を作れる会社を探して、国内外を駆けずり回っている。
注文の断りの電話ばかりで落ち込んでいたら、
いきなり、今まで取引がまったくなかった大企業から電話やメールをもらい、
「おたくでは、こういった製品を作れないか」という問い合わせを来たという話も耳にする。
捨てる神あれば拾う神あり。思わぬところに新たな需要があるに違いない。
役に立てそうな技術や設備や人材を持っているならば、
地域や系列などにこだわらず、全国各地のさまざまな企業にアプローチしてみるべきだ。
◆土俵の真ん中で相撲を取れ
相撲取りが、体勢を立て直して、少しでも土俵の真ん中に行こうとするのと同じように、
経営者、ビジネスマンとして、常に、どこが土俵の真ん中なのを、冷静に考え、行動しなければならない。
言うまでもなく、企業の血液はお金である。資金繰りが滞れば企業は倒産する。
土俵の真ん中に居続けられるように、資金的余裕を持たねばならない。
資金に余裕を持てば、心に余裕もできて、自分を客観的に見ることもできるし、
思い切った決断もできれば、未来への展望も開けてくる。
被災地に限らず、今回の震災を受けて、自治体など公的機関からの緊急特別融資制度も整っている。
インターネットで調べたり、最寄りの自治体や商工会議所、商工会などの窓口で確認していただきたい。
また、土俵の真ん中がどこなのか、短期的ではなく、中長期的に見て、
業態や立地を、根本的に考え直すことも重要である。
バブル崩壊もリーマンショックも乗り越えてきた数十年も続いた銀座のある有名老舗クラブは今回の地震の後、
店を閉めた。
経営者は十分な蓄えもあり、資金繰りに困っているわけではない。
しかし、彼は、計画停電で銀座のネオンが消えるのを見て、さらにそれが長期化することを予測し、閉店を決めた。
今後は、時代に合った飲食店やエリアを変えての出店を考えている。
また、中堅の機械メーカーを経営する社長は、電力不足が長引くことを考慮して、
主力工場を関東から九州に移すことを決断した。
震災によって、日本列島自体が、東に2.4メートル、最大で4メートルも移動した。
自らのビジネスの土俵の中心が移動していないか検討してみるべきである。
◆「疾風に勁草を知る」
「疾風に勁草を知る」 〈後漢書 王覇伝〉
(はやい風が吹いて初めて強い草が見分けられるように、厳しい試練に遭って初めて本当に強いものがわかる)
というように、私たちは、この疾風に打ち勝つ勁草とならねばならない。
被災地復興、日本復興のためにも、あらゆる日本の経済人は、今こそ志を胸に、
どんな困難をも乗り越えて生き残るべく、全身全霊を賭けて、事業に取り組むべきである。