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愛読者通信

【特別対談】WBC日本代表 栗山監督の『人の用い方』

「愛読者通信」著者インタビュー

 監督就任1年目。球界一のエース、ダルビッシュ選手が抜けて苦戦が予想されたチームを率いて、見事リーグ優勝。
常識に捉われない発想と挑戦の連続で、中田 翔選手、大谷 翔平選手、近藤 健介選手ら数多くのスター選手を発掘し、育て、10年間で、Aクラス5回、2度のリーグ優勝、16年には日本一に輝く。組織のリーダーとして、「選手を育てるために何ができるか」「チームが勝つためにどうすべきか」…座右の書、井原隆一の『人の用い方』からどう学び、活かしてこられたのかを語っていただいた。

 

栗山秀樹氏について

WBC日本代表監督、北海道日本ハムファイターズ元監督

1984年にドラフト外で内野手としてヤクルト・スワローズに入団。1年目で一軍デビューを果たし、86年には107試合、4本塁打、規定打席不足ながら3割1厘と活躍。89年にはゴールデングラブ賞を獲得。90年にケガや病気が重なり惜しまれながらも引退。解説者・スポーツキャスターとして野球やスポーツの魅力を伝える一方で、白鴎大学の教授として教鞭を執るなどその活動は多岐にわたる。2011年、北海道日本ハムファイターズの監督に就任。大谷翔平の「二刀流」など常識に捉われない育成、指導でチームをけん引。2回のリーグ優勝。16年に日本一に輝く。監督通算1410試合、684勝。2021年よりWBC日本代表監督に就任。

 

5年ぐらい井原さんの話を毎日聞きました

作間 いちばん忙しいキャンプ中に、時間をとっていただきありがとうございます。栗山監督は、もともと本を良く読まれるそうですが、中国古典等々の最初の出会いはどのようなところからですか。


栗山監督 中国古典の入口は間違いなく井原隆一さんです。論語、菜根譚、孫子の兵法、貞観政要などほとんど読んでいますが、井原さんの中国古典の話が「なるほどなぁ」と一番腑(ふ)に落ちました。 監督になって5年ぐらいは井原さんの話をCDで毎日聞いていました。自宅から球場への行き帰りの車の中で、行き1時間、帰り1時間。もう100回以上は聞いています。


作間 すごいですね。次に井原先生が何を言われるかは、もう解っているんでしょうね。何度も聞いて、飽きることはありませんか。


栗山監督 この話の次はこの話というのは、もちろんわかっています。ただ聞くときの自分の状況によって、同じ話でも全然言葉の入り方が違います。試合に行くときなど、迷ったり悩んだりしますが、タイミングよく井原さんのひと言が入り込んできます。その時、その時で得られるものが違うので、飽きることはありません。いろいろ難しい場面で判断の指針になりました。


作間 その勉強のモチベーションは、どこからくるのですか。


栗山監督 監督になったばかりの頃は何もわからないので、ただただ必死でした。でもそのうちに、自分が成長しないとチームが勝てないということが、だんだんと理解できるようになりました。
 選手のほうが若いので、いろいろ経験して早く成長します。だから僕は、選手の10倍勉強しなければいけないと強く思うようになりました。勝利のために選手に厳しい練習をさせているわけですから、僕は素振りの代わりが勉強だと思っています。


作間 初年度リーグ優勝、2年目最下位と、監督は天国と地獄を2年間でみてこられましたが、そのような時に、井原先生のフレーズの中で触発された言葉はありますか。


栗山監督 触発されたというより、さまざまな決断を迫られる中で、中国古典をはじめ、井原さんや、安岡正篤さん、森信三さんなど先人の言葉の中から、いま自分に足りないものを探しだすという感じです。
 本は、過去の何千年もの間に、人が生きたデータをそのまま残しているものです。それを学ぶべきだと井原さんは僕に教えてくれました。それは僕にとっては、ものすごく大きかった。何千年もの歴史の間に、僕と同じような悩みをもった人が必ずいたはずで、そこを探しきれるかどうか。だから長く語り継がれているものを学び続けています。それが井原さんの『人の用い方』や『社長の帝王学』です。


作間 毎年監督が本を出版される目的もそこにあるのですか。リトルリーグや高校野球の監督からすればかなり意味のあるテキストになるのではないかと思います。


栗山監督 実はあまり本を出したいとは思っていません。僕が何に悩んでいて、どう決断していったのかを残しておいたほうがいいと言われて。確かに誰か一人でも引っ掛かってくれるのなら、そのほうがいいですね。
 ただ、僕みたいに本当に困っていたら、ハウツー本では答えはみつかりません。だから僕が今、徹底的に買って読んでいるのは、日本経営合理化協会のものか、致知出版のものぐらいです。井原さんも言ってましたが、本当に死を意識したときには『論語』や『聖書』しか読まなくなるそうです。面白いものは絶対に手を出さない。僕は本当に苦しみまくっているので、そうなんだろうなという実感があります。

超一流になるには、人間力が必要

作間 大谷翔平選手や清宮幸太郎選手など、あれだけの有力選手を育てるというのは、ものすごいプレッシャーがあると同時にやりがいがあるのでは。


栗山監督 球界から宝物を預かっているのですから、なんとかいい形にしてあげなければいけないと痛切に感じています。毎日、死ぬほど怖くてしょうがない。幸太郎の場合は野手なので少しは気が楽ですが、吉田輝
星とか翔平とか、ピッチャーは一発で壊れる可能性もあるので、本当に生きた心地がしません。


作間 選手を育てるために、本を渡しているそうですね。


栗山監督 本当は論語なんかを読んで欲しいのですが、選手たちが難しいと言うので、最近はなるべく簡単な本を渡すようにしています。
 でも、選手の方から勉強したいと言ってくることもあります。例えば、アメリカに行った菊池雄星なんかも「何かいい本ないですか?」と聞いてきました。だからアメリカに行く前に、難しい本ばかりたくさん送りました。


作間 雄星選手は、私どもの勉強会に何回か来られたことがあります。すごい勉強熱心でびっくりしました。


栗山監督 もともと高校時代から監督に教わって、勉強しようとする姿勢のある選手です。翔平もずいぶん本を読みますが、高校時代の教育はすごく重要です。


作間 大谷翔平選手は、私どもで出版している中村天風先生のファンだというのを、何かの記事で読みました。一流の人たちは違うなと感心しました。


栗山監督 中村天風先生は、スポーツ選手にも本当に影響力がある方です。
 プロの世界というのは、素材だけでは一流の選手として長くは続きません。体力と野球脳はもちろん、それと同時に人間力を鍛えなければいけません。プロ野球選手である前に人としての勉強が大事です。
 野球の技術を教えるよりも、人としての在り方を掴んだほうが、一気に成長します。


作間 僕たちはそういうのをスイッチが入るという表現を使います。スイッチが入る瞬間は、どのような時ですか。


栗山監督 選手は、勝つことの中でも学べるし、負けたことの中でも学べます。起こった事柄をどのように取り入れ発展させるかは、人としての在り方です。それは、プロ野球だけでなく、どの仕事をしていても一緒です。 また人は、本当に追い込まれて苦しまないと得られないものがあると僕は思っています。艱難辛苦がすべてではありませんが、人が成長するときというのは、何か困らないと成長しないケースが多くあります。
 苦しんで、もがき苦しんで、悩みに悩んで。でも何もできない。そのときしか、成長のチャンスはないんだという話を選手によくします。

 

教えるのではなく、勉強する姿を見せる

作間 一軍の選手、二軍の選手、それから新人で入ってきた子たちに、監督自身はどのようなレクチャーをされるのですか。


栗山監督 皆さんが思っているほど、直接、細かく指導することはありません。何かを教えるということではなくて、僕自身が勉強して成長する姿を見せることのほうが大事だと思っています。それが何かのときに選手に伝わると思うし、僕がどれだけ勉強しているのかというのが、そのままチームの成績に表れるからです。よく言われている、組織はトップの人の器以上に大きくならないというのは真理です。
 もっとも、一流の選手たちは、自分で・・・(2ページ目に続く)

勝手にうまくなっていきます。天性の才能だけで勝負できる選手もごく稀にいます。彼らは、誰かに教わるということはありません。自分で気がついて、成長をしていきます。
 ですから僕たちは、勉強を教えるのではなくて、勉強の仕方を教えるようにしています。考え方だったり思考の方向性だったり、やり方をたくさん提示してあげます。そこで選ぶのは選手自身です。ただ選手が間違った判断をしていると思ったら、気づいてもらう作業をします。それも徹底的に。監督業は気づかせ屋さんでもあります。


作間 結果的に伸びる伸びない、ものにするしないは、選手自身の問題ですね。一流の選手は、誰かに教えてもらっても素直にそれをやることはないと。選手に本を渡されるときも、こういう本もあるよ、ああいう本もあるよと提示はするけど、無理強いしないということですね。


栗山監督 ただ、いろいろな形でアプローチはします。例えば今年、新人の選手にある本を配りました。その本に将来の約束を書かせて持ってこさせる。最後に僕のメッセージも書きます。彼らが野球界に夢を持って入ってきた「今」の思いを大事にする「人に担いでもらえる」ことがリーダーの第一条件ためです。年月が経ち、慣れてしまったり、一生懸命やれなくなったときに読み返すときが必ず来ます。
 これは森信三さんの「元服のときに、一生の書を持たせるべきだ」というのを読んで、絶対にやってあげるべきだなと思ったのでやっています。
 また、今年も開幕投手には、本にメッセージを書いて渡しました。その本を、いつか読んでくれたら良いと思っています。


作間 選手に監督の思いを伝える時に、どのようなことに気を付けていますか。


栗山監督 学生野球の父、飛田穂洲(とびた すいしゅう)の言葉に「無私道」というのがあります。「私を無くせ」「人に尽くせ」という意味です。野球はそのようなスポーツです。
 ただ今の選手に「自分を殺せ」と言っても、プロ野球選手は年俸が上るのが評価なので、わかりにくくなってしまいます。そういうものをどのように表現すれば伝わるかを常に考えています。
 中村天風さんの本を読むと「欲を無くすなんてありえない」と書いてあります。欲の質を上げると言うほうがわかりやすい。小賢しい小欲を持ってどうするんだということを言っています。
 要するに「自分を捨てなさい」という表現なのか、中村天風さんみたいに「欲はあっていいんだ。ただ、真の満足は、人の喜びを自分の喜びとすることでしか得られない」という表現なのか。結局同じことを言っているのに表現が違います。ここが僕が選手に伝えるときに間違えないようにしているところです。

 

すべての判断基準は「選手のためになっているか」

作間 井原先生の言葉の中に「教へて之れを化(か)するは、化、及(およ)び難(がた)きなり。化して之れを教ふるは、教、入り易(やす)きなり」というのがあります。教える人はまず、相手を感化しないと、技術をはじめいろいろなものが入らないという意味です。このような話をコーチの方々にされることはありますか。


栗山監督 僕は、何も言いません。監督はあくまでマネージャーで、マネジメントするだけです。ただ、コーチには情熱と愛情を持って、本気で選手と向き合って欲しいと願っています。


作間 チーム栗山としての指導方針や運営方針を伝えることもない?


栗山監督 必要なことはたった一つです。「選手のために、なるかならないか」その判断基準しかないとずっと言い続けています。
 ただし、個別のやり方に関しては各自いろいろなやり方があるので、それを否定するつもりはありません。球団は、コーチの人たちの技術や知識をお借りしているわけです。
 ただ、本当にそれが選手のためになっていないと思えば、もちろん話し合いはします。


作間 逆に、監督にとっての師匠だった方を教えてください。


栗山監督 その質問は、皆さんからよく聞かれます。僕は今、誰が師匠かと聞かれると、すこし迷います。その師匠を見つけるために歴史を学んでいるので。ただ、二軍監督の内藤さんをはじめ、運よく自分を導いてくれる人に出会ってきたのは、間違いありません。
 「知の巨人」と言われた渡部昇一さんが「自分にとって神様のような先生の出会いがあった。ところが、同級生の誰もがその先生を良いとは言わない」と言っています。
 本当にその通りだと思います。師匠というのは、他の人にとってはどうでもいい人だけど、自分にとっては最高の師匠だということがあるので、ビッグネームを追いかけるより、自分にとってというふうに意識したほうがいいと思います。

 

「人に担いでもらえる」ことがリーダーの第一条件

作間 経営者の世界は、親父のあとを受けて後任社長になっていく人たちがいます。監督業も初代の横沢三郎監督から代々引き継ぎですね。跡を取って組織を束ねて行く人にアドバイスをお願いします。


栗山監督 中国古典にも、創業と守成の話はよく出てきます。僕が思っているリーダー論の一番目は、「人に担がれる」かどうかです。人がこの人を手伝ってあげようと思ってくれるかが、最大の成功要因です。だから、「俺、二代目だから社長になるのは当たり前だ」と思っているような人は、多分失敗します。
 自分が裸になって、なんとか一生懸命、この会社をみんなのためにやってあげようという真摯な姿があれば、能力があろうとなかろうと、手伝ってくれる人は必ず出てきます。その資質が組織を前に進め、発展させるときに一番重要だと思います。作間 親父はゼロから今の形を作ったスーパースターみたいな創業経営者ですから、実績を持っている。だから、跡を取る人たちはものすごいプレッシャーです。


栗山監督 父親と同じ実績を残すのは無理です。創業者が強いに決まっています。そのような人と勝負するのは、僕が、王さんや長嶋さんと監督で勝負するようなものです。だからそこは捨てて、親父以上に必死にやるよ。みんなの生活、絶対に守ってやるという覚悟や姿を見せるのです。


作間 球団と会社は違うかもしれませんが、監督が社長でコーチの人たちが取締役というふうにすると監督業とはなんでしょうか。


栗山監督 それは、最終責任を持って決める、決め屋さんです。ただ初年度は、わからないものは「すいません。わかりません」と素直に言いました。わからないのが当たり前です。先代は何十年もかけてそこまでやっているのです。逆にわかっているフリをしてしまうと、誰も意見を言わなくなるし、何も手を出そうとしなくります。
 ただ、僕は「こうしたいんだ」ということは言っていました。すると、じゃあどのようなやり方があるのかと考えてくれる人は必ず出てきます。もちろんその時でも「こうしろ」とは言わず「こうさせてくれ」とお願いするようにしています。


作間 さすがですね。そのように考えられるのですね。ついつい、無いプライドを盾にして見栄を張ってしまいます。


栗山監督 それが一番まずい。裸になれるかどうかです。もっとも僕の場合、見栄を張っている場合ではありませんでした。就任一年目は自分を理解してもらうために、本当に一言、一言戦っていました。だから言葉がすごく大事でした。ただ、それを越えてくると、言葉では何も変わらない、行動で示さなければいけないと気づきました。


作間 そこまで選手のことを思って、ストイックに学び続けている監督がいるチームは幸せです。今日はキャンプでお忙しいなか、素晴らしいお話をいくつもお聞かせいただいてありがとうございま
した。二度目の日本一を目指して頑張ってください。

 

※本対談は2019年3月に弊会が刊行した小冊子に掲載されたものです。対談内容は編集・執筆当時のものですので現在の情報と異なる場合があります。

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