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戦略・戦術

第78話 「売上不振の本質は何か」

強い会社を築く ビジネス・クリニック

故・樋口 廣太郎(元アサヒビール社長)のお話です。
 
 東京オリンピック(昭和39年)前後から、優良企業であったアサヒビール(大日本麦酒としてアサヒビールとサッポロビールに分割される)は、夕日ビールや黄昏ビールと言われ、その頃、参入してきたサントリーのビールに追いつかれるほど、弱体化していました。
 初代社長の山本爲三郎氏が、サントリーに軒先を貸したからだ、いや、○○だと言われ、引き続いて再建を任された社長はことごとく失敗に終わった。
 
 京都大学卒の樋口廣太郎氏は、メキメキと出世し、本人もおそらく住友銀行の頭取を目指していたのでしょう・・・
 1986年 副頭取の時、「アサヒの再建に、社長として行ってくれ!」との内示を受けたときの心境は、いかばかりであったでしょうか?(樋口氏は、酒は飲めない体質でありました)
 
 
 民間の中小企業に銀行出身の人が途中入社してこられますが、役所出身の人材と同じで、ほとんどの人は、使いものにならないと思っています。中小企業が期待する能力が、銀行出身者にはないからです。
 しかし、銀行マンのすごいところは、80%ぐらいの人は行動力があり、お客様の所へずかずかと入っていきます。その度胸はたいしたもので、いつも感心しています。あの行動力が中小企業の幹部にはありません。
 
 日が落ちつつある、たそがれた とはいえ天下のアサヒビール、社員のプライドは、それなりに高いものがあったでしょう。
 樋口氏のすごいところは、早速に北から南までお客様を、自分自らが訪問し、現状認識を行ったことでしょう。
 社長が代理店、小売店を訪問するとなると、事前に各拠点長は、苦言を言わない、アサヒの受けの良い客を訪問先に決めてしまいます。樋口氏は、そんなものに一切 目もくれず、疎遠になっているお客を自ら選び訪問されたようです。
 
 樋口氏がその客先で見たものは、売れずに残る商品在庫、一種の不良在庫の山でした。
 
 これらはすべて、アサヒの営業マンのリベートや得点を付けての強引な押し込み販売によるものでした。
 商品は、製造日からみても古く、ビールの生命を失っているものであることは、酒をたしなめない樋口さんでもわかることでした。
 樋口さんは、帰社して、村井さんと相談の上、市中にある古い在庫を全て工場に吸い上げ、セールスマンに売ることを止めさせたのです。市中の古いビールをすべての回収にかかったのです。
 
 いわゆるアサヒビールの「フレッシュ作戦」のスタートでした。
 人に言わせれば、住友銀行がついていたからこそできたことだと言われたりしたようですが、売上不振の本質は売れない商品とノルマ的押し込み販売と長期在庫による味の変化だったのです。売上不振の時、無理して売っても問題解決にはなりません。
 
 次に樋口さんが打った手は、樋口プロジェクトの新商品「ドライ」です。ラベルも黒と銀、従来と全く異なる新しいラベルです。
 「キレがあって、コクがある」いやはやすごいキャッチコピーが登場したのです。
 
 食品製造に携わってきた私にとって、目をむくコピーです。
 
 キレ → すっきり 軽い、さわやか
 コク → 味が濃い、しっかりしている、重い
 
 こんな真反対な味がビールの中に出せるのか?
 不思議に思いました。
 飲んでびっくり
 「うまい!  いいじゃない!」
 
 新商品はものの見事に当たりました。テレビコマーシャルを未だに記憶しています。
 白いヨットの舳先にジャンボ尾崎(コクか?) 青木 功(キレか!) が真白な服装で乾杯をしていました。
 
 これらの話は、日本経営合理化協会主催の青年部長対象セミナーの時、ゲストでお招きした樋口さんから、直接にお聞きしました。
 
 物腰柔らかく、その時に、コシノジュンコのネクタイと「念ずれば花開く」のサイン本をいただきました。
 
clinic78_01.jpg
 呑舟ノ魚
 不遊支流
 
舟を飲み込むような大魚は
小さな川では遊ばない
         
井上君 もっと上を目指しなさい!と言われているつもりで今日まできました。 

合掌

 

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