小売市場において、ニトリホールディングスの勢いが止まらない。資本市場から企業の価値を見るひとつの指標に時価総額がある。発行済み株式数に株価を掛けたもので、その企業を100%手に入れようとしたときに必要な金額になる。
小売業で最も時価総額が大きいのはセブン&アイで3兆8,000億円、2番目がユニクロのファーストリテイリングで3兆6,200億円となる。そして3番目は去年までイオンであったが、今はニトリの1兆3,600億円である。イオンは1兆2,000億円で4番目、5番目は少し離れて最近ユニーとファミリーマートが統合したユニー・ファミマの8,500億円となる。なお、以上は11月4日の株価をベースに計算している。
ニトリの勢いは株価の変化率からも明らかで、昨年末から直近まで日経平均が11.2%下落していることもあって、これらの企業の株価も軒並み下落している。しかし、この間ニトリは20.5%の上昇となっている。このほか前述の企業ではユニー・ファミマも18.8%の上昇となっているが、これはユニー・ファミマが日経平均に採用されたことによる特殊な事情によるものであり、実力だけというわけではない。
さて、ニトリ好調の最大の背景は何かというと、専門分野以外の売上高を大きく伸ばしていることである。大多数の人はニトリは家具屋だと思っている。もちろん、その認識が間違っているわけではないが、実は家具の売上が大半だと思っている人が多いのは明らかに間違いである。
会社側が明確な形で公表していないため、あまり知られていないかもしれないが、実はすでに家具の売り上げ構成比は40%を割り込んでいると思われる。投資家と議論していると、ニトリは家具屋であって、近年住宅には収納スペースが多くなっているため、家具市場は縮小しているから、ニトリも成長しないという意見が多い。
しかし、実はこれが明らかな間違いであって、家具市場の縮小はすでに数十年間継続しているにもかかわらず、ニトリはその間高成長しているのである。ちなみに、この10年間、ニトリの売上高は年率11%増え、営業利益は年率15%増えている。同期間に他の大規模小売業で成長率が高いユニクロは、売上高は年率16%伸びているが、営業利益は年率11%の伸びに過ぎない。ユニクロの場合、売上高を伸ばしているのは海外であって、利益面ではむしろやや苦戦していることがわかる。といっても10年間、年率11%の営業利益の増加自体すごいのではあるが、ニトリはそれをさらに上回る成長となっている。
では、ニトリが売っている家具以外は何の商品かといえば、ホームファッションと呼んでいるカーテン、寝具などから家庭雑貨、軽家電、台所用品などなど家の中で使うあらゆる商品を扱っているのである。
つまりニトリは、家具の圧倒的な競争力をバックにした集客力によって、家具以外の商品の販売力を強化したことになる。ユニクロのように海外という新しい市場に出て行ったのと違って、同じ店舗内で販売金額を伸ばしたわけであるから、利益率も大きく上昇した。最近は季節グッズも充実させており、業績の強力なけん引役になりつつある。季節グッズとはハロウィングッズ、クリスマスグッズなどである。今やこれらグッズの国内最大の売り場がニトリではないかとさえ思われる。
すでにここ数年で小売市場におけるニトリの存在感は大きく高まったが、ここから先もその勢いは当面衰えそうにない。
有賀の眼
同社の戦略である専門分野以外の商品を増やすという戦略は過去にも多くの企業が行って高い成長を遂げてきた。
最もわかりやすい例はセブンイレブンがある。スタートは加工食品や日用雑貨などであったが、そこからおにぎり、サンドイッチ、弁当、総菜、さらには公共料金の収納、宅配、ATMなどと取扱品目は増えてきた。これもコンビニエンスの集客力が背景にあり、顧客の利便性を追求した結果である。
他にも同様の例は多い。JRもわかりやすい例である。かつては売上、収益の大半が輸送であった。しかし、駅には毎日大勢の人が来るわけであるから、それを顧客とみなして、そこにショッピングモールを展開した。また、駅にビルを建てて、マンションやオフィスとして販売や賃貸も行っている。
今から20年前には営業利益の内、93%は運輸業によるものであったが、現在は運輸業の利益ウエイトは72%まで低下している。もっとも、たまたまここ1、2年はインバウンドで外人旅行者が増えており、運輸の成績が向上し利益ウエイトが上がっているが、2年前の運輸業の利益構成比は66%まで低下していた。
これらは今でこそ当たり前で、新しい発想とは思えないかもしれないが、始める前は意外な盲点であった時代も実は長いのである。ニトリでは最近来店客をターゲットに保険代理業まで始めているが、今は何でそんなものをと感じるものの、やがて当たり前と思える時期が来るのかもしれない。その意味では自社の集客力を生かして、本業以外の商品、サービスを販売することは全く新規のビジネスより少ない労力で効率的な手段と言え、常に検討の余地があるのではないだろうか。