はてなは、ネットの聡明期に「人力検索はてな」といういわゆるQ&Aサイトの草分けとしてスタートした企業である。さらに、はてなブックマークやブログの前身であるはてなダイアリーを開始し、やがてはてなブログを立ち上げている。これらのサイトはUGC(ユーザージェネレイテッドコンテンツ)と呼ばれ、そのサイトを使う個人がどんどんコンテンツを作成して行くことで、サイトへの訪問者が増えるものである。同社のようなサイトの運営者はサイトへの訪問者の数に比例するように広告収入が増えるというものである。
同社はその後、ブログの運営技術をもとに、ブログMediaに参入している。ブログMediaは企業が自社の商品やサービスの宣伝、告知をするためのものであるが、ホームページのようにいかにも売り込み感が強いものではなく、消費者がブログを回遊している感覚で抵抗なく訪れるような造りであり、知らずの内にその商品、サービスのファンとなるような効果を期待するものである。
また、同社ではUGCサイト作りのノウハウを応用して、ゲーム会社のゲームと連動するサイトなども開発している。これは、ある特定のゲームのファンの交流サイトであり、ゲームファンが発見した裏技やゲームのクリア度合いなどを報告し合うサイトである。つまり、コンテンツを作るのはユーザーであり、まさにUGCとなる。他にも出版社に対して、小説の投稿サイトなども提供している。
ただし、同社にとってこれらの新規ビジネスは、受託して人件費をかけて開発するビジネスであり、着実な成長は見込めるものの、爆発的な利益成長に結びつくものではない。
それに対して近い将来の同社の成長をけん引することが期待されるのが、サーバー監視システムの「Mackerel」である。かつて、サーバーの監視システムはサーバーを使う企業のIT担当者が自ら開発していたものである。しかし、高度な技術は必要ではないものの、それなりに手間のかかるものであった。そのためやがて、ネット上で運営されるシステムとして販売する企業が現れた。
そしてこの数年、多くの企業がクラウドを使うようになり、サーバー監視システムも徐々にその市場を拡大させてきた。同社の推定売上高も2016年7月期から35百万円、129百万円、306百万円と急拡大し、今2019年7月期にも60%ほどであり、一見、それほどのインパクトはないように見える。しかし、このビジネスは同社が最近始めた他の新規ビジネスのように変動費がかかるわけではないため、限界利益率が100%に近く、売上増の業績へのインパクトは極めて大きい。
このMackerelの高成長のきっかけは我が国のクラウドのトップシェアであるアマゾンの認定を受けたことである。サーバー監視システムでは日本企業として唯一の認定企業であり、そこからMackerelの高成長が始まっている。さらに昨年11月にはアマゾンウエブサービスのコンサル企業としてトップのクラスメッド社が採用して、さらに今後の売上が加速しそうになっている。
ネット企業の場合、アマゾンのクラウドを使うときに自社のIT技術者が行い、そのサーバー監視システムとしてMackerelが使われてきた。しかし、一般企業が自社でアマゾンのクラウドを自在に使うことは難しく、外部のネットコンサルに依頼することになる。つまり、そのコンサルが同社のMackerelを採用したということはやがて大多数の顧客がMackerelを使うと考えていいだろう。
実はすでに述べたように、サーバー監視システムはIT技術者が自ら作ることもあるように、それほど高度な技術が必要というものではない。それにもかかわらず同社のMackerelが広く採用されているのは、使い勝手の良さが評価されたものである。サーバーはしばしば不具合を起こすが、その都度担当者にメールで知らせが届くことや過去にさかのぼってサーバーの状態をきめ細かく見ることができるなど、コツコツとユーザビリティを高めることを積み上げてきたためである。
このように、生き馬の目を抜くようなITの世界であっても、コツコツと得意な分野、技術を磨いてゆくことで、時にMackerelのような宝の山にたどり着くこともある好例と言えよう。
有賀の眼
ネット市場に対して高成長のイメージを持っている人は世の中に多くいるでしょう。リアル市場からネット市場を見ている人々もそうだが、実際にネットに携わる経営者でもそうである。しかし、実際はネット企業でも結構地味なビジネスは多い。
そのため、ネット企業の中にはその地味なビジネスには物足りなさを感じ、もっとネット企業らしい派手なビジネスで成功したいと思う上場企業の経営者は意外と多い。その場合、過去においては、ゲーム市場にチャレンジする企業が多かった。
中には大成功を収めて、ほんの数年で全く異なる利益水準の会社となる企業も現れた。ディーエヌエー、ガンホー、ミクシーなどがその例である。最近では、ミクシーが好例である。株価は2013年10月には230円であったが、1年も経たない2014年7月には20倍以上の6,000円を超え、最後は2017年5月に7,000円を超えて、現在の株価は2,500円ほどである。
業績面でも2014年3月期の売上122億円、営業利益4.8億円がわずか2年後の2016年3月期には売上2,088億円、営業利益950億円と急変貌した。これこそ、一獲千金そのものである。しかし、2019年3月期の予想営業利益は420億円となっている。まさにジェットコースターに乗ったような業績変化である。とてもリアルの企業では考えられない世界と言えよう。
これはSNSの会社であったミクシーが、ゲーム開発に取り組み、一発当てて大成功を収めたものである。しかし、やがてゲームは廃れるが、大当たりしたゲームを超えるゲームが開発できなければ、好業績も短命に終わってしまう典型例である。
実はこのように大成功した企業は数えるほどであるが、結局実を結ばなかった企業は星の数ほどある。かつてデータセンター事業者のさくらインターネットもゲームを手掛け、失敗して、債務超過に陥り、双日の出資を仰いで、前社長が退任したことがある。それほど、ネット企業の経営者にとって、ゲームビジネスは麻薬のような魅力を持ったもののようである。
そんな業界環境の中で同社は着実に自社の得意分野を深耕する方法で、宝の山にたどり着いた可能性がある。もちろん、日進月歩のネットワールドであり予断は許さないが、同社の今後に注目したいものである。