大学教授のCさんは、数年前に大学を変わった。
新しく教えることになった大学は、自宅から片道一時間以上はかかる。
転居も考えたが、共働きの奥さんにとっては、今の住まいは職住近接。毎日通勤する。
一方、Cさんは、週に三度、大学に行くだけだ。それに、転居にはまとまったおカネもかかる。
Cさんは、通勤時間が少々長くても「我慢」しようと考えた。
そして、実際に通い出してみると、一時間以上、ただ「我慢」しているのではもったいないと
考えるようになった。
そこで、あえて、各駅停車を利用して、もっと時間をかけて通勤することにしたという。
急行は込み合うが、各駅停車は空いている。ただし、時間は20分以上余計にかかる。
だが、ほぼ必ず座れることに着眼した。座れれば、ノートパソコンが使える。
Cさんは通勤電車の中でノートパソコンを開き、論文や、ときおり頼まれる
本や雑誌用の原稿作りを進めるようにしたのである。
結果的には、一時間半あまりのまとまった時間のとれることが「吉」と出た。
原稿を書くには、ある程度のまとまった時間が必要だからだ。
Cさんではないが、通勤しながら論文を書くなど、「二種類の時間の使い方」をしたり、
簡単なことは並行して行うようにすると、持ち時間を倍にできる。
実は、私の時間錬金術のメニューにも「Cさん方式」はちゃんと入っている。
若い頃から私は、通勤の車の中では、ビジネス教養や語学などのテープを聴いたり、
英語の放送を聴いたりしている。
活字を追いながら、英・仏の語学テープや講演テープを聞くこともあった。
朝食時には、家族には申しわけないが、新聞を読む。英語放送も聴いている。
ある程度、英語力は身につけたつもりだが、トレーニングを怠れば、
アスリートの筋肉同様、英語力もすぐ衰えてしまうからだ。
一日一冊は買うといってもよいほど本を買う私は、一度に三冊くらい並行して、
異なる本を読みこなしていく。
地方に講演に行く機会が多いが、新幹線や飛行機の移動時間は貴重な読書タイムである。
長い移動時間がとれる仕事は、本好きの私には、むしろ無上の喜びとなっている。
スターバックスコーヒーの創業者であるハワード・シュルツ氏は、忙しい時ほど
むさぼるように本を読んだという。
飛行機での移動のときは、途中で本が「切れて」しまわないために、いつも何冊も
カバンに本を詰め込んでいたそうだ。私にも同じクセがある。
こうして、時間ケチに徹すれば、ムダ時間が排除できるばかりか、同じ持ち時間でも、
その価値を倍にも、それ以上にも拡大できるはずだと思う。