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ビジネス見聞録

第8回 今月のビジネスキーワード「サブスクリプション」

ビジネス見聞録 経営ニュース

※本コラムは2021年5月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。

 IT業界やエンターテイメント業界周りで、よく聞く言葉のひとつが『サブスクリプション』。『サブスク』と略されることもあります。どうして着目されるようになったのか、どんな点が魅力なのか、サイバー大学IT総合学部教授の小宮紳一さんにお話を伺いました。

●『サブスクリプション』とは何か

――『サブスクリプション』といえば、音楽聴き放題とか、映画見放題といったイメージが強かったのですが、新聞・雑誌の定期購読料や公共料金なども含まれると伺い、ちょっと混乱しています。そこで、まずは、そもそも『サブスクリプション』とは何かから教えていただきたいのですが。

 実は、世の中には、まだ、『サブスクリプション』のはっきりした定義はありません。だから、多くの人が、『サブスクリプション』の理解に躓くのは当然です。そこで、まずは、『サブスクリプション』の元の意味から説明しましょう。『サブスクリプション』は、新聞や雑誌の予約購読や定期購読などを表す言葉として、英語圏の人たちが昔から使っている言葉です。私たちにもなじみがあるサービスなので、まずは、新聞や雑誌の定期購読を例に考えてみましょう。

 新聞や雑誌の定期購読料は、月額5,000円とか、年額1万円といった具合に支払う額が決まっています。また、支払いについては、半年とか1年間とか継続します。このように「定額制」であり、また「継続的に課金」されるという二つが『サブスクリプション』の基本要素なのです。

 さらに、新聞や雑誌は利用者の家まで届けられるので、商品やサービスによっては、『サブスクリプション』に、利用者の手元に届けるという要素も加わります。もちろん、新聞や雑誌の他にも、『サブスクリプション』が導入されている身近な例は沢山あります。たとえば、ガス、水道、電気といった公共料金。

 基本料金については、定額で、継続的なので、『サブスクリプション』にあたります。一方、使用した分については、使った分だけ課金される従量課金が適用されます。公共料金は、基本料金(サブスクリプション)+使用料(従量課金)という立て付けになっているのです。その他、サプリメントの定期購入、頒布会、家賃、駐車場代、スポーツクラブの会費、学校や塾の月謝をはじめ、ありとあらゆる場で『サブスクリプション』が利用されています。

●『サブスクリプション』ブームのきっかけ

――日本にも昔からあった定額の課金システムを、わざわざ英語の『サブスクリプション』に置き換えた理由はなんでしょうか。

 昔からあった定期購入が、今更、大ブームになったことには、いくつか要因があります。ひとつは、デジタル分野で、動画や音楽の定額制配信サービスというものが急激に普及したことです。通信速度が上がったため、音楽や映画の配信が簡単に行えるようになったのです。当初は、音楽や動画などをネット上で購入するといったスタイルから始まり、やがて、「聴き放題」「見放題」といった定額のサービスが生まれたのです。

 スタートすると、圧倒的な人気が出ました。それをきっかけに、2016年頃から、音楽や動画の定額制配信サービスが急激に増えていきました。Hulu(フールー)、Netflix(ネットフリックス)、アマゾン・プライム・ビデオなどが、その例ですね。

 2つ目のポイントは、2017年頃からでしょうか、アメリカを中心に、リアルなモノの分野で、新しいカタチの「『サブスクリプション』が増えていったことです。化粧品、食材、家具をはじめ、様々なものが『サブスクリプション』で提供されるようになりました。その多くが、顧客の獲得や顧客管理にネットを活用しているのが特徴でしょう。

 そして3つ目が、世界の時価総額ランキングのトップ10のうち、GAFA、中国企業のアリババ、テンセントの6社が『サブスクリプション』を採用していることです。このような流れの中で、日本の企業にも、『サブスクリプション』に取り組まなければならないという機運が盛り上がってきたのです。

●モノ消費からコト消費

――消費者の意識の変化といったものも影響しているとご著書にありましたが。

 それが4つ目のポイントです。若者を中心に、消費離れは顕著になっていますね。とくに10代、20代の若者の消費離れ、いいかえれば所有欲が減退しているといったデータもでてきました。

 たとえば、私が若い頃は、多くの若者が車を購入することを大きな目標にしていたし、実際に購入すれば、友達などに自慢できました。しかし、今は、そんな人はほとんどいないし、そもそもクルマの購入が自慢にならない。同様に、マイホームの購入を人生の大きな目標にする人も少なくなった。若い人のこうした傾向がはっきりしてきました。

 彼らがどこに向かっているのかといえば、お金を使わなくなったわけではありません。モノ消費からコト消費に移行しているのです。モノを購入して満足するのではなく、体験にお金を払っている。旅行、コンサート、スポーツ体験、コミュニティへの参加などが、その例です。

 分かりやすいのはブランド物バッグでしょう。1990年代の終わりくらいまで、女性にとっては、ブランド物のバッグを持つことがステータスでした。エルメスとかグッチとか、何十万円もするバッグを所有していることが重要でした。しかし、今は違います。重要なのは、高価なバッグを所有することではなく、使うことだと考え方が変わってきました。

 こうした変化を背景に大成功を遂げたのがラクサスでしょう。定額制の高級ブランドバッグのレンタル会社です。取り扱いブランド数は57。月額6800円を支払えば、好きなブランドの好きなバッグをレンタルできます。返却すれば、また、他のバッグを借りられます。ひと月の交換回数に上限はありません。借り放題の『サブスクリプション』です。年度末に大量のCMを流しているので、かなり儲かっていると思いますよ(笑)。

●ビジネスモデルが変化している

――お話を伺っていると、これからは『サブスクリプション』に切り替えなくては生き残れないような印象を持ちます。

 そうですね。ビジネスモデルが変化していると考えた方がいいでしょう。まずは、先ほど挙げた4つのポイントをもう一度振り返ってみましょう。まず、通信速度が速くなったことがきっかけでデジタル分野で『サブスクリプション』への移行が始まりました。そして世界のいわゆる勝ち組企業が、次々に『サブスクリプション』を導入した。やがて、リアルなものでも『サブスクリプション』が広がっていった。加えて消費者の意向が変化していった。

こういった流れの中で、日本の企業も考え方が変わってきたといえるでしょう。それでは、『サブスクリプション』によって、ビジネスモデルは、どのように変わるのでしょうか。

 これまでは、モノを大量につくって、マスメディアで宣伝をして、まずは売り切ることを目指しました。作ったものを売り切ったら、新しい製品を出して、大量に広告を打って、再び売り切ることを目指す。このようなやり方が、もう通用しないと、だんだん考えられるようになってきたのです。売り切りのモデルから『サブスクリプション』への切り替えで、もっとも成功したのは、マイクロソフトだと言われています。

 もともとは、ワードやエクセルなどをCD‐ROMに入れてパッケージとして販売していました。数年に一度、いろんな機能を詰め込んで、大バージョンアップをして、「出ましたよ。また買ってください」とやっていた。いわゆる売り切りモデルでした。しかし、今の時代にパッケージ販売をやっていては先がないと、『サブスクリプション』に変えたのです。

 それによって、月々お金が入ってくるという収益モデルに変わり、売上利益が安定するようになりました。それが評価されて、現在でも時価総額で世界のベスト10に入っているのです。『サブスクリプション』に変えたことで、生き残ったわけです。

 サブスクには、もう一つの大きなメリットがあります。それは、顧客との長期的な関係性を築けることです。たとえば自動車なら、トヨタ車に乗っていた人が、買い替えの時に、再びトヨタ車を選ぶとは限らない。

 商品とは、そういうものですが、『サブスクリプション』なら、買い替えは発生しないのでずっと利用してもらえる可能性が高い。長いつきあいになれば、改善もしやすくなります。売り切りのモデルだった時代は、新製品を出す時に、まとめて改善をしていましたが、長期的なつきあいになれば、とくにデジタル系のサービスの場合は、日時単位での改善もできるし、客の声をフィードバックするなど、きめ細かな対応も可能になります。

 自動車業界ナンバーワンのトヨタが『サブスクリプション』の『KINTO』というサービスを打ち出したのは、そうした時代の到来を象徴しているといえるでしょう。

●サブスクの市場規模は、すでに1兆円超

――『サブスクリプション』には、どのようなビジネスが向くのでしょうか。

 前述したように、食品から自動車まで実に多様な業種が『サブスクリプション』を導入しています。定価をつけて販売するのか、長期的に貸し出すかの違いだけなので、むしろ、『サブスクリプション』を導入できないビジネスを探す方が難しいかもしれません。

 そもそも『サブスクリプション』を取り入れていた企業に、新たに『サブスクリプション』を取り入れた企業が加わり、その市場規模は、2018年には1兆円を超えました。2023年には1兆4000億円に達すると予測されています。これからも、多くのビジネスが、どんどん『サブスクリプション』に移行していくわけです。

 難しいのは、『サブスクリプション』にした時に、きちんと売上利益を得られるかどうか。『サブスクリプション』の場合は、長期の利用を前提にしているので、一回の支払いは低額に抑えているからです。一方、経営がうまくいけば競合がどんどん入ってきます。売上利益を確保しながら、競合と戦えるのかが、大きなポイントになります。

 その一つは参入障壁を築くことでしょう。たとえば、前出のバッグのレンタルをしているラクサスでは、AIによるレコメンド機能によって差別化をはかっています。

 ラクサスはIT系の会社なので、ファッションのことは分からない。だから人ではなくAIがレコメンドするようになったのですが、それが逆に新鮮だったり的確だったりするため、会員数は30万人に増加しました。サンプル数が増えればデータの精度はあがり、経験や勘で勧めているような業者は太刀打ちできなくなります。

 ファッションに限らず、業界の人は業界の考え方に固まり、気づけば他の業界出身者に業界ごと乗っ取られてしまうといった例も出てきました。印刷業界、出版業界、書店などは典型でしょう。また、日本酒やワインなどの頒布会で、多くの人が1年程度で退会するのは、レコメンド機能が弱いからでしょう。家族の人数とか、好みとかを組み込んでリコメンドする、現代型サブスクリプションを構築していくことが多くの業界で必要でしょう。

●顧客の快適、便利を考える

――これからサブスクを導入する上での注意点を教えてください。

 これからは「サブスクの時代だからサブスクをやろう」と考えるのは危険です。サービスをより快適に、より便利にするための手段がたまたまサブスクだった。このように考えて取り組むべきでしょう。まず自社の製品やサービスを顧客の視点から見直し、継続的に利用されるものかどうかを検討することから始めてみてください。    (聞き手 カデナクリエイト/竹内三保子)

 

 

 

 

 

 


小宮紳一(こみや しんいち)

サイバー大学IT総合学部教授 博士(経営管理)。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科 博士課程修了。専門はマーケティング、サブスクリプション、ビジネスプランニング。ソフトバンクで20年以上に渡り、事業責任者やグループ会社の代表・役員を歴任。その後、株式会社グローバルマインの代表取締役として、多くの企業と協働して様々な新規事業を立ち上げている。『やさしく知りたい先端科学シリーズ サブスクリプション』(創元社)『事例で学ぶサブスクリプション』(秀和システム)など、著書多数。

※本コラムは2021年5月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。

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