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ビジネス見聞録

第7回 今月のビジネスキーワード「Society5.0(ソサエティ5.0)」

ビジネス見聞録 経営ニュース

※本コラムは2021年3月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。

 「ソサエティ5.0」は、「第5期科学技術基本計画」の中で提唱された日本が目指すべき新しい社会の姿です。いったいどんな社会なのでしょうか。また、5Gの登場は、「ソサエティ5.0」の実現をどうサポートしていくのでしょうか。情報通信総合研究所の上級コンサルタント真子博さんに伺いました。

●ドイツに刺激されて誕生

――最近、「ソサエティ5.0」という言葉をよく聞きます。内閣府や経団連などのホームページには、こんな世界がやってくると、夢物語のような風景が描かれています。最初に「ソサエティ5.0」が生まれた経緯から教えてください。

 「ソサエティ5.0」が生まれた大きなきっかけは、AIやIoTなどIT技術の発展を受け、ビジネスのデジタル化が急激に進み、世界で「新・ものづくり」ムーブメントが起こったことです。ドイツの「インダストリー4.0」、アメリカの「先進製造パートナーシップ」、中国の「中国製造2025」などが代表的な国家プロジェクトです。

 中でも、日本が注目したのはドイツの「インダストリー4.0」(第4次産業革命)」。ドイツも日本同様、中小企業が多い国で、製造業は中小企業が支えているといってもいいでしょう。「インダストリー4.0」では、デジタル空間で中小企業同士をネットワーク化することによって、無数の中小企業の工場が、あたかもひとつの工場のように稼働できるようになることを目指しています。

 製造する製品によって、あるいはロットによって組み合わせは自由に変えられる。生産革命につながるような中小企業の産業構造改革です。ドイツでのこうした改革が、いずれ日本の製造業をはじめ、世界的な産業構造の変革につながるのではないかといった強い危機意識が生まれました。

 そこで、日本が目指すべき新たな指針、「インダストリー4.0」を超える概念として「ソサエティ5.0」が誕生したのです。

●コンセプトづくりに経団連も参加

――「ソサエティ5.0」は、どこでつくられたのでしょうか。

 『総合科学技術・イノベーション会議(略称: CSTI)』でつくられました。これは、内閣府の重要政策に関する会議のひとつ。オールジャパンの視点から科学技術基本法に基づき、科学技術基本計画を策定するための企画立案、総合調整をする場です。メンバーは、総理と関係閣僚(7名)、有識者議員(8名)で構成されます。

 「ソサエティ5.0」は、2016年に打ち出された概念で、 第5期科学技術基本計画の4本柱のひとつに盛り込まれました。具体的なコンセプトづくりには日本経済団体連合会(以下経団連)も参加しています。経団連は、2018年には、「ソサエティ5.0」を実現させるための議論の場「未来社会協創会議」を立ち上げ、「Society5.0-ともに創造する未来- 」という提言も公表しました。

 「ソサエティ5.0」を実現させるための産業界の旗振り役としての役割を担っています。いいかえれば、経団連が、そこまで力を入れるほど、日本経済の将来を左右する重要なプロジェクトなのです。

●「ソサエティ5.0」は人間中心の社会

――どうして「ソサエティ5.0」という名前なのでしょうか。また、それは、どんな社会なのでしょうか。

 まず名称ですが、技術や道具などの進歩によって、人類は、これから5回目の社会の大変化を迎えるという意味です。ちなみに1回目の大変化、「ソサエティ1.0」は狩猟社会です。「ソサエティ2.0」が農耕社会、「ソサエティ3.0」が工業社会。

 そして、現在、私たちが住んでいる情報社会が「ソサエティ4.0」です。これからやってくる「ソサエティ5.0」は、デジタル技術やデジタルデータの活用が進む社会です。内閣府では、『サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)』と定義づけています。

 これまでは、仕事でも、生活でも、情報が欲しい場合は、人間が必要なデータを探しに行く必要がありました。ITリテラシーの差によって、見つけられる情報に差が出て、情報格差が広がっていました。それに対して、「ソサエティ5.0」の世界では、サイバー空間に、いろんな情報、つまりビッグデータが集積されていきます。

 情報が必要になれば、人間の代わりにAIが探したり、解析したりしてくれるので、誰でも必要な情報を得られるようになり、情報格差はなくなります。また、AIやロボットなどの活用が広がれば、情報を使いこなすのは、より簡単になり、人間が情報に振り回されることはなくなります。

 「情報の扱いはAIなどに任せて、人間らしい暮らしを取り戻しましょう」。ソサエティ5.0とは、そういう概念だと思います。

●5Gへの期待

――「ソサエティ5.0」を実現させるためには、どのようなステップが必要なのでしょうか

 具体的には、どのように「ソサエティ5.0」の世界がやってくるのか、まだ、やっと少しずつ分かってきたという段階です。ITを例にあげれば、当初は、単に業務効率のために使う道具でしたが、その後、「情報をとって、どう活用していくのか」「どうやって組み込んでいくのか」といったことに課題が変わってきました。

 同様に、ソサエティ5.0についての説明も2017年当時と1年前では違ってきました。今は「ソサエティ5.0」の中身が見えてきたので、それを動かすために、どうすればいいのかといった議論が中心になってきました。これからも、変わっていくと思います。

 一方で、「ソサエティ5.0」を実現させるために、どうしても必要な技術もあります。たとえば、ビッグデータを活用したり、地域格差を無くそうとすれば、データ転送のスピードをあげる必要があります。現在、その役割を担うと期待されているのが5G(第5世代移動通信ネットワークテクノロジー)です。5Gの特徴は、まず通信速度の速さ。現在、私たちがスマホなどで使っている4Gの10倍くらいだと言われています。

 それは2時間映画を3秒程度でダウンロードできる速さです。そして二つ目が「超低遅延」。「超低遅延」とは、通信ネットワークのタイムラグが非常に少ないことです。たとえば、ライブ放送やWEB会議などで、声が聞こえるタイミングと映像がずれたり、画像がかくかくしたりすることがあるでしょう。このような映像のズレや画像のかくかくが、5Gでは、4Gの10分の1くらいになるそうです。

 そして三つ目が、「多数間接続」。多数間接続とは、基地局1台から同時に接続できる端末が、これまでよりも飛躍的に増えることです。どのくらい増えるかと言えば、4Gの30~40倍、1平方キロメートルあたり100万台が同時に接続できると言われています。もっとも、これがいきなり使える状況にあるかといえば、まだまだこれからです。しかし、5Gの登場によって、実用段階に入っていくことが期待できる技術も沢山あります。

 そうした中で、今、もっとも期待されているのは、遠隔医療でしょう。5Gによって、映像が鮮明になり、遅延が無くなれば、A病院のドクターが、海外のB病院に入院している患者さんに対して、手術用ロボットを使って遠隔手術することも可能になります。同様にちょっとした工事や修理など様々な分野で遠隔操作が可能になるでしょう。

●コネクテッドインダストリーズ

――経産省も独自の戦略を打ち出しているようですが、「ソサエティ5.0」との関連は何でしょうか。

 コネクテッドインダストリーズは2017年3月に提唱されました。ソサエティ5.0を実現するための産業像を示すことがコンセプトですが、直接のきっかけは、ドイツのインダストリー4.0に対する不安でした。しかし、実は日本企業には、ドイツ企業にはない強みがありました。それは世界に冠たる品質を支える現場の強さです。そして、現場に蓄積された大量のデータです。これを活用すれば、十分、ドイツに対抗できると考えたのです。

 ところが、多くの企業の技術や技能をはじめとした現場の情報は、共有してデータとして使える形という意味ではデータ化されていませんでした。もちろん、データ化に取り組んでいる企業は少なくありませんでしたが、そのやり方は、各社バラバラでした。それどころか同じ会社でも部署ごとにバラバラというところも珍しくありません。

 せっかく、AIやビッグデータやIoTなど新しいデジタル技術がでてきても、企業の情報がデータ化されていなければ活用できません。まして「ソサエティ5.0」の実現には役立ちません。そこで、さまざまな業種、企業、人材、機械などの情報をデータ化して、AIやビッグデータなどで活用できるようにしようとしているのです。

 合わせて、データを有効活用して、技術革新をうながしたり、技能伝承を行ったり、エネルギー制約などの社会課題を解決したりしながら、産業用ロボットなど個別の産業、もしくはメイド・イン・ジャパンの強さを打ち出そうとしています。産業に限らず、理工学部と工学部といった大学内、各省庁間をはじめ、データの作り方がバラバラなケースは少なくありません。

 「ソサエティ5.0」を実現するためには、いろいろなジャンルでデータ化、コネクテッド化が必要です。

●行動指針は「ソサエティ5.0」

――国の方針に従い、各省庁が「ソサエティ5.0」に向かい、同様に大企業、中小企業がついていくという形で進んでいくのでしょうか?

 これからは、国が司令塔で、みんながそちらに向かうという形ではなくて、国が、行動指針というか、進むべき道を示すことになっていくのではないでしょうか。各省庁も縦割りではなく、横断的に、ゆるやかに、同じ方向進んでいくと思います。

 しかし、いずれにしても、国が動くということは予算がつくということで、予算をつけて動かせば、ある程度、そちらの方向に動いていくことは確実でしょう。

 そのためにも、もちろん、国の政策方針や国のプロジェクトの動向など、国の動きはしっかりと把握しておくことが必要です。

●情報格差の縮小

――地方の企業や中小企業が国の動きなどを知るためのポイントを教えてください。

 かつては、情報は中央省庁の周りに集中していたので、地方の大学や企業は、月に一回程度は東京に情報を収集しにいくといったことも見受けられました。

 しかし今は、WEB上にほとんどすべての情報がアップされるので、地方の中小企業でも、タイムリーに情報がとれるようになりました。国の審議会の内容も、昔は公開されるのは1~2週間後でしたが、今は、その日にアップされるようになりました。

 そういった意味でも、常に情報をブラッシュアップしていくことが求められます。地方だから、中小企業だから、情報がとれないという時代は終わりました。「ソサエティ5.0」の時代がやってきたら、あらゆる情報が平等になり、企業間の競争が激しくなることも予想されます。だからこそ、情報を正しく認識し、世の中の動きとマッチさせることでチャンスが広がる可能性があると考えます。  

――とくに中小企業にとってはチャンスが広がる楽しみな時代の到来だともいえそうですね。本日は、ありがとうございました。
(聞き手 カデナクリエイト/竹内三保子)

 

 

 

 

 

真子 博(まさご ひろし)
情報通信総合研究所 社会公共コンサルティング部上級コンサルタント。科学技術政策動向に精通し、国家プロジェクト、自治体のICT化、教育のICT化等に関するコンサルタント業務に従事。文部科学省出身。国立大学法人東京工業大学研究推進部長、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付参事官補佐(国際総括)、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)総務部参事などを経て現職。山形大学客員教授も兼務。


※本コラムは2021年3月号「ビジネス見聞録」に掲載したものです。

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