menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

危機を乗り越える知恵(18) 五分の勝利(引き分け)が道を開く

指導者たる者かくあるべし

  キューバ危機打開に向けて、米国大統領ケネディが、海上封鎖でソ連の出方を探るという方針を国民に示して2日後の1962年10月24日朝、ホワイトハウスは緊張に包まれていた。
 
 複数のソ連の船舶が海上封鎖をあざ笑うかのように、封鎖線突破の動きを見せていた。フルシチョフに警告は通じないのか。判断は間違っていたのか。危機は最高潮に達する。
 
 数分後、6隻のソ連船が封鎖線直前で停止し、引き返し始めたとの情報が入った。とりあえずの危機は回避されたのだ。
 
 この前後、ソ連首相のフルシチョフとケネディは、弟ロバート(司法長官)と駐米ソ連大使を通じて、精力的に書簡を往復させ意見交換を していた。
 
 「われわれは、ミサイルは搬入したが、米国攻撃の意図はない」と、フルシチョフ。
 
 「米国こそ(ビッグス湾事件のような)キューバ侵攻を繰り返さないと約束すべきだ」
 
 さらに、ソ連は、米国がモスクワ牽制のためにトルコに配備したミサイルの撤去を要求し、ケネディは国民には極秘で合意した。
 
 フルシチョフは、「トルコのミサイルに関する合意の秘密は守る」とケネディの憂慮を解いた上で、10月27日朝、キューバからのミサイル撤去を通告してきた。米軍部の反発を考慮しての裏取引だった。
 
 大統領の意を受けて奔走したロバートは、「相手の立場に立って考えることが重要だった」と危機の13日間を振り返っている。
 
 ケネディは、必ずしも一枚岩ではないソ連指導部内でのフルシチョフの立場を気遣い、秘密合意で面子を立てる。
 
 一方のフルシチョフは、ロバートから、状況が長引けば大統領が軍部を制御できなくなると訴えられ、「私はその危険を見落とさなかった」(『回想録』)と、決断の背景を打ち明けている。
 
 危機回避後、両首脳間にホットラインが設けられ、翌年8月には、部分的核実験停止条約が調印されることになる。
 
 「戦いは、五分の勝利をもって上とし、七分を中とし、十分をもって下とす」(武田信玄)
 
 軍部が主張した空爆、上陸侵攻による十分の勝利ではなく、妥協による五分の勝利が、平和共存への道を開いた。
 
 しかし、やがてケネディ兄弟は相次いで国内不満分子の手で暗殺され、フルシチョフは、政争に敗れ幽閉されて生涯を閉じる。
 
 相手を配慮する危機回避の知恵は皮肉にも、「五分の勝利」を受け入れられない互いの国内の不満から力によって踏みにじられ、冷戦下の体制競争と対立は、それから約30年、ソ連崩壊まで続くことになる。
 
 
 ※参考文献
 『13日間 キューバ危機回顧録』ロバート・ケネディ著 中公文庫
  『フルシチョフ回想録』タイムライフブックス
  『ケネディ 「神話」と実像』土田宏著 中公新書
 
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

危機を乗り越える知恵(17) 議論を尽くし収斂させる前のページ

危機を乗り越える知恵(19) 失敗の教訓を生かせ次のページ

関連記事

  1. 中国史に学ぶ(2) 司馬仲達、戦わぬ名将

  2. 逆転の発想(41) 政治に必要なのは言葉の力である(吉田茂)

  3. 故事成語に学ぶ(50) 臣をして忠臣とならしむることなかれ

最新の経営コラム

  1. 「令和女子と新しい需要」/3分でつかむ!令和女子の消費とトレンド第3回

  2. 第8講 営業の方が『ご指摘製品の引取りのための訪問をする』際の、とても大切なこと①

  3. 第26回 銀行とリスケ交渉を円滑に進めるポイント

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. マネジメント

    故事成語に学ぶ(29) 知りて言わざるは不忠
  2. キーワード

    第32回 プログラミング教育
  3. 健康

    第54号「アメリカ高速道路で学ぶ”パターンを知っている人達̶...
  4. マネジメント

    第197回 「お客様第一主義」とは何をすることか?
  5. 社長業

    Vol.52 隆盛する企業の条件
keyboard_arrow_up