幅広い人脈の持ち主というと、すぐに脳裏に浮かぶ知人がいる。
イタリア生活から帰国して企画制作会社に入社し、たちまち大手クライアントを引きつけて活躍している
Gさんだ。
彼女が商談を進めているテーブルはすぐにわかる。いつも笑顔に満ちているからだ。
ほかのテーブルがどんより曇った雰囲気だったり、どことなくジトッと湿っているのとは対照的だ。
彼女がイタリアに行ったのは、決して前向きの動機からではなかった。
進学校から芸大受験を志したために、何度チャレンジしても実技試験が通らなかった。
結局、4度目で断念したが、どうしても絵を描いて生きていきたいと願う彼女は、気持ちをスイッチ
できなかった。
長年不和だった両親が離婚に踏み切ったことも重なり、逃げ出すようにイタリアに流れていったのだ。
イタリアでもバラ色の生活が待っていたわけではない。
言葉もろくにできない。学生ビザで入国していたため、公然とは働けない。
当然、かなりの貧乏暮らしだ。絵も思うようには描けない。
だが、出会った人々は誰もが、まず、にっこりと笑顔を向けてくれる。
その笑顔に何度となく励まされ、力を得ることができたという。
明るい顔つき、心の底からの笑顔の持ち主は、周りの人にも元気を与えることができるのだ。
そんな人のもとには、黙っていても人が集まる。
福沢諭吉の『学問のすすめ』は、明治4年から9年の間に400万部も発行された大ベストセラーだ。
その第17篇「人望論」には、"顔つきを明るくすること"と書かれている。
いわく、"人の顔色は、いわば家の門口のようなものだ。広く人に交わって自由に客を招き寄せるには、
まず、門口を開放して、玄関を掃除し、ともかくも人を来やすくさせることが肝要だろう…"
前にも述べたが、「タイム・マネージメント・コース」というセミナーを受講した時、スマイルカード
というものを手渡された。
鏡にもなる銀色のカードで、端にはスマイルの絵が書いてある。
人に会う前には、このカードで笑顔をつくり、それから会うようにすべきだというのだ。
それまでの経験からも、笑顔でコトにあたった方が、しかめっ面の時よりも事態はうまくいく、
ということを感じていた。
私は決して暗い方だと思っているわけではないが、いつもニコニコしているかといわれれば、
いささか自信がない。
そこで毎朝、会社に着くとトイレに入り、大きな鏡に向かって、数回、笑顔をつくる練習をし、
それから部下に接するようにした。
誰にも寝不足や二日酔いなど、ついついしかめっ面をしてしまう朝がある。
そんなときも、このトイレの笑顔練習が、しかめっ面を笑顔に変えてくれた。
夫婦げんかの翌朝の効果はさらなり、である。