menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

後継の才を見抜く(1) 家康の”作り馬鹿”

指導者たる者かくあるべし

 あるとき、豊臣秀吉が聚楽第に諸将を集めて演能の会を開いた。
 
 戦国の世は落ち着きを取り戻し、演能の才も書道、和歌も武士のたしなみでもあった。秀吉はそれぞれの才を見ようとした。
 
 織田信雄(のぶかつ・信長の弟)は、舞に自信があった。龍田舞いを一部のすきもなく見事に演じた。
 
 徳川家康は、船弁慶で義経を演じることになったが、若武者には似つかわしくない太鼓腹でよたよたと舞台を動き回り失笑を買った。
 
 家康をなじる声を聞いて、秀吉は「信雄は不必要なことに達人で、家康は不必要なことに下手なだけだ」と見抜いた。
 
 あえて馬鹿を装う家康の“作り馬鹿”の才に、そら恐ろしさを感じていたかもしれない。
 
 また、秀吉が小田原に北条氏を攻めたときの逸話がある。家康は先手の将としてある小川にさしかかった。細い木橋がかかっている。
 
 家康は馬の名人として知られていたから、豊臣勢の武将たちは、「いい場面に出くわした。家康殿の馬術の才を見ようじゃないか」と固唾を飲んで見守っていると、家康は木橋の際まで来ると馬を下 り、従者に背負われてぶざまな格好で橋を渡った。
 
 見守っていた丹羽長重らは、「馬の名人ながら達者ぶらず、いくさを前に慎んでいる。大将たるものかくありたいものだ」と感心したという。
 
 「あの古狸め」と、家康を嫌う秀吉の近臣の一人が秀吉に進言した。
 
 「腹が出ていて、自分一人では下帯も結べず、用便もできぬとか。家康はぼんやりの鈍物でありましょう」
 
 秀吉は言った。「わしが知っている利口者というのは、武に優れ、広大な領国をうまく経営し、財力を持つものをいう。この三つが整えば、ほかのことは馬鹿でもかまわぬ、家康の作り馬鹿は、お前たちが真似をしても一生できぬことよ」
 
 人は人前で才を誇りたくなるものである。接待ゴルフのラウンドで見事なクラブさばきを誇る手合いは多い。しかし、プロでもあるまいにその能力を評価するものはいない。あえて才気を見せず、作り馬鹿を装う才こそ、人を怖れさせる。
 
 天下統一の創業者である秀吉は、やがて、作り馬鹿の家康が、豊臣の世の後、天下人となることに気づいていたに違いない。
 
         ◇
 
 このあと、後継者問題に稿を進める。
 
 
 
 ※参考文献
 
  『名将言行録』岡谷繁実著 講談社学術文庫
 『戦国武将・人間関係学』大和勇三著 PHP文庫
 
 
 
  ※当連載のご感想・ご意見はこちらへ↓
  著者/宇惠一郎 ueichi@nifty.com 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

危機を乗り越える知恵(20) 忘れ去られた教訓前のページ

後継の才を見抜く(2) 毛利元就、”三矢の教え”の真実次のページ

関連記事

  1. マキアヴェッリの知(1) 権力維持の現実論

  2. 人を活かす(3) 三原 脩(おさむ)の遠心力野球

  3. 万物流転する世を生き抜く(20) 人を制する者は天下を制す

最新の経営コラム

  1. 第183回 菊寿司 @福島県相馬市原釜 ~地魚主体の握り

  2. 第七十一話_禁断の組み合わせから地域活性化へ - 和歌山県田辺市のうなぎ販売展の革新的ビジネスモデル

  3. 第179回 米国に制裁されても反米しない華為

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 戦略・戦術

    第172話 手形決済期限が120日以内から60日以内になります
  2. コミュニケーション

    第54回 心を配って酷暑を乗り切る
  3. マネジメント

    第6回 旗を立てる
  4. マネジメント

    挑戦の決断(12) ルビコン川を渡る(ユリウス・カエサル)
  5. 人事・労務

    第32回「中途採用者(転職者)と転職後の賃金」
keyboard_arrow_up