menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

交渉力を備えよ(25) 引き受けたら、まず全体情況をつかめ

指導者たる者かくあるべし

 国運を懸けた日露戦争は始まった。外交交渉の決裂を見越して計画していた通り、陸軍は国交断絶から二日後の明治37年(1904年)2月8日には電撃的に韓国の仁川(インチョン)に上陸し、海軍は翌日、仁川港口でロシアの砲艦2隻を撃沈している。

 しかし、財政面では長期戦を戦うための準備は整っておらず、「まずは攻撃」という無計画ぶりだった。その資金調達を日銀副総裁の高橋是清が任されたのである。まったくの付け焼き刃である。

 いったい、どれだけの戦費がかかり、いつまでにどれだけの外債を募集しなければならないのか。ロンドンに向かう前にこれだけは確認しておかなければ、と高橋は考えた。軍は“勢い”で動かせるかもしれないが、財政は“計画”が第一に求められる。

 会社でいえば、商機を見つければ、必要経費を要求し「行け行け」の営業と、経営全体を見渡して手綱をしめる財務の関係である。

 井上馨、松方正義両元老が戦時財政をみるとこになり、開戦後、大蔵省幹部との間で評議が繰り返された。

 そこでの議論は心もとないものであった。

 「軍費総額は約4億5千万円。日清戦争と同じく三分の一の1億5千万円を正貨(金=ゴールド)で海外調達の支払いに充てる。日銀の正貨の余力は高橋君の調査によれば、5千万円。そこで1億円の外債を至急に起こさねばならない」

 それでは国庫の正貨はなくなってしまう。となれば金本位制は維持できない。

 1億円と言っても、今とは貨幣価値が違う。開戦前年1903年の国家予算の歳出が2億5千万円であるから、1億円の起債はとんでもない額である。

 「付け加えるならば」と、大蔵省幹部は言った。「この計算は、韓国からロシア軍を一掃するだけの1年の戦費を見積もってある。もし戦いが鴨緑江(朝満国境)の外に続くようであれば、さらに戦費は追加せねばならぬ」

 高橋はそれを聞いて、「一度の起債で済むわけがない」と覚悟した。

 直前のポンド建て外債が失敗に終わったことは前回触れた。「私はまず広報役となろう。長期戦となるなら、今回の戦争の意義と勝算、ひいては日本という極東の一小国を国際金融界に知らしめ信頼を得る必要がある」

 高橋是清は、2月24日、横浜から米国に向かった。まずニューヨーク金融界での感触を確かめたかった。

 京城(現ソウル)以南を手中にした日本陸軍は、勢いに乗って平壌攻略戦に戦線を拡大しようとしていた。 (この項、次回に続く)

 

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※    参考文献

『高橋是清自伝(上、下)』 高橋是清著 上塚司編 中公文庫
『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち』 板谷敏彦著 新潮選書
『日露戦争史』 横手慎二著 中公新書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交渉力を備えよ(24) 日露戦争の戦費調達を託された高橋是清の苦闘前のページ

交渉力を備えよ(26) 「できない」言い訳を探さず「できる」戦略を練れ次のページ

JMCAおすすめ商品・サービスopen_in_new

関連記事

  1. 万物流転する世を生き抜く(47) 兵を集中できなかった三成

  2. 国のかたち、組織のかたち(66) 米価安定をめぐる闘争⑫(奇妙な集荷争奪戦)

  3. 時代の転換期を先取りする(19) 欧州に先駆けた中国の大航海時代(鄭和の南海遠征)

最新の経営コラム

  1. 第177回 赤字事業を会社分割すると、従業員はどうなるのか?(後編)

  2. 第205回 サッカーワールドカップの最先端技術

  3. 国のかたち、組織のかたち(105)発明の権利は誰のもの(404特許訴訟)

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 健康

    第42回 丸駒温泉(北海道) 季節によって深さが変わる湖畔の湯
  2. マネジメント

    第46回 社員の幸せを考えるブレない経営とは?~事例:ブルックスブラザーズ
  3. 健康

    第112回 四万温泉(群馬県) 湯治効果の高い「共同浴場」と「飲む温泉」
  4. サービス

    22軒目 「老後に企業した人気レストラン」
  5. 採用・法律

    第7回 『契約書チェックで取引先の「性格」がわかる?!?』
keyboard_arrow_up