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交渉力を備えよ(24) 日露戦争の戦費調達を託された高橋是清の苦闘

指導者たる者かくあるべし

 明治日本が本格的に国際舞台に踊りでた日露戦争(1904-1905年)。旅順の203高地の奪取戦、奉天会戦での勝利、ロシアのバルチック艦隊を壊滅させた日本海海戦という陸海軍の活躍にばかり焦点があたる。

 しかし、アジアの一新興国がヨーロッパの大国ロシアを破った最大の要因は、膨大な戦費の調達をめぐるもう一つの“戦い”であった。

 その戦いを託されたのは、一人のバンカー、高橋是清(後蔵相、首相)だった。数々の試練を乗り越え救国の使命をやり遂げた彼の冷静で大胆な知恵と機転がなければ、今の日本はなかったといっても過言ではない。

        ◇

 日銀副総裁の高橋是清が「重要な話がある」として総裁室に呼ばれたのは、明治36年(1903年)11月10日のこと。日露開戦の三か月前である。新任総裁の松尾臣善(まつお・しげよし)は、内密の話としてこう告げた。

 「朝鮮・満州問題をめぐる日露の交渉が思わしくない。万一両国開戦となれば、日銀としては軍費の調達に全力を注がねばならない。国内の支払いは兌換券の増発によってなんとかなるとしても、軍器軍需品の多くは外国から購入せざるを得ない。これは正貨で支払わねばならぬから、十分研究しておいてくれ」

 正貨とは金のことである。金本位制では金の保有が国内外における国家財政の信用度の尺度である。日清戦争では、軍費調達のため多くの金が海外に流出したため、終戦2年後に導入した金本位制の安定に苦労した。

 高橋は秘かに、商社の輸入為替の予約高、期限などの調査を行った。

 当時の日銀の金保有高は1億1700万円でしかない。そこから開戦で大量の金が流出することになれば、兌換の信用が失われ、紙幣は紙切れに過ぎなくなってしまう。

 となれば、戦争費用の調達は海外金融市場で外債を募って賄うしかないが、まだまだ信用度の低い当時の日本の担保能力で、どれだけの募債が可能なのか。現に直前にロンドンで行なった外債発行では応募額は発行額の10分の1にも満たず失敗していた。

 「軍事のことはわからんが、大国ロシアを敵に回しての開戦は可能なのか」。高橋は金融家として薄ら寒いものを感じていた。

 1903年時点での日本のGNP(国民総生産)は、27億円弱で、ロシアの3分の1でしかない。

 幕末に10代でアメリカに、私費で渡った経験のある高橋は、欧米社会で根強い日本蔑視の風も熟知している。「日本が勝てるわけがない」と見られては、起債どころではない。

 翌年(1904年)2月6日、日露は国交を断絶し、開戦に至る。一週間後、高橋は、明治政府元老の井上馨に呼び出された。

 「ご苦労だが、ロンドンに財務官として乗り込み、公債の募集に当たってもらいたい」

 内々の打診では固辞していたが、こうなれば引き受けざるを得ない。

 「これだけは約束していただきたいことがあります」と高橋は井上に条件を出した。

 「外債話が持ち上がれば、国の内外にブローカーが現れて、手数料を得ようと政府にいろいろと持ちかけてくる。政府は一切それを取り上げず、私に全権を託されたい」

 「わかった、堅く約束する」。井上の確約を取り付けて、高橋は大任を引き受ける決心をする。

 海千山千の国際金融世界で、司令塔が一つでなければ、全うできる仕事ではない。

 軍事と同じだ、と高橋は考えていた。  (この項、次回に続く)

 

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※    参考文献

『高橋是清自伝(上、下)』高橋是清著 上塚司編 中公文庫

『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち』板谷敏彦著 新潮選書

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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