先日、経済産業省は2015年版「通商白書」を発表した。今回の「通商白書」は「世界で稼ぐ力」をキーワードとして、「輸出する力」、「呼び込む力」及び「外で稼ぐ力」という「3つの力」で、日本企業の国際競争力の現状と課題を分析している。切り口が斬新で内容も非常に充実しており、今回の「通商白書」は例年に比べれば面白い。特に、中国市場に関して、対中輸出金額や来日中国人の消費額、在中国日系企業の日本への配当金などはいずれも主要国の中で最大規模となった事実が明らかにされた。
全体の4分の1を占める対中輸出
2014年日本の中国向け輸出は前年比6%増の13兆3844億円となり、対米輸出(13兆6488億円)を若干下回る。しかし、香港向け輸出4兆円強を加算すれば、対中輸出は17兆円強で全体の23.6%を占め、米国の18.7%、ASEAN15.1%、EU10.4%を遥かにリードしている(図1参照)。
出所)「通商白書」及び財務省「貿易統計」により沈才彬が作成。
もちろん、課題も残っている。例えば、成長分野の製品輸出をどう増やしていくかである。図2に示すように、輸出金額が増加傾向にある産業分野(成長分野)が全産業分野に占める割合は、中国89%を筆頭に、英国75%、米国74%、韓国74%、ドイツ71%、フランス60%と並んでいる。それに対し、日本は僅か47%で、主要国とのギャップが大きい。いかに成長分野に傾斜し、主要国とのギャップを埋めるかが「輸出する力」を高める日本の重要課題となる。
出所)経済産業省「通商白書2015」により沈才彬が作成。
日本への配当金が一番多い国は中国
これまで「中国ではなかなか儲からない」が日本のマスコミ論調の主流だが、今回の「通商白書」はこの常識をさっぱり覆した。 「通商白書」は2012年度国別日系企業の売上、経常利益、日本への配当金額を記載している。それによれば、売上は中国の日系企業(約28兆円)が米国の日系企業(約54兆円)に及ばずに2位だったが、経常利益と日本への配当金はいずれも中国の日系企業が米国を凌ぎ1位を飾っている。
国別日系企業経常利益上位5カ国はそれぞれ(1)中国(約1.49兆円)、(2)米国(約1.38兆円)、(3)タイ(約1.05兆円)、(4)豪州(約0.6兆円)、(5)インドネシア(約0.48兆円)の順だった(図3を参照)。
一方、国別日系企業の日本側への配当金額は中国の日系企業が約0.33兆円で1位。米国とタイは同じく約0.27兆円で中国を追う。オランダ(約0.22兆円)とシンガポール(約0.1兆円)はそれぞれ4位と5位を占める(図4を参照)
出所)経済産業省「通商白書2015」により沈才彬が作成。
要するに、直接投資のリターンから見ても中国巨大市場の存在感が益々増大している事実がわかる。
来日中国人消費が外国人全体の27%
2014年、入国観光ビザの規制緩和や円安要素などによって、来日外国人は急増している。人数では前年比29.4%増の1341万人に達し、日本での消費金額は前年比41.3%増の2兆円強にのぼった。その内、来日中国人の急増が特に目立ち、日本で落とされたお金は外国人消費全体の27.5%にのぼる(図5を参照)。
出所)日本政府観光局(JNTO)の統計資料により沈才彬が作成。
人数から言えば、来日中国人は前年比83.3%増の241万人で、台湾(283万人)、韓国(275万人)に及ばないが、日本での消費金額はダントツ1位で5583億円にのぼり、台湾人(3544億円)と韓国人(2090億円)の合計に匹敵する。今年はさらに大幅に増えるのは確実な状態となっている。中国人の「爆買」消費は日本の景気を刺激し、経済の下支え要素にもなっている。
これまで「通所白書」を分かり易く解説し、輸出・対外直接投資・観光の視角から中国巨大市場の実態を解説してきた。この実態の解明によって、日本企業はマスコミの喧伝に左右されずに引き続き中国市場の開拓に注力すべきことを強調したい。