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日本的組織管理(1) 褒めれば人は動く

指導者たる者かくあるべし

 しばらく中国史から経営のヒントを探し求めてきた。ご覧になったように、中国的な思考法は少々功利的にすぎて、血が通わぬ弊がないではない。

 劉邦にしても曹操にしても人事にあたって傑物の才をみせるが、育てた人物が我が身を脅かし始めると、果敢に切り捨てる。使われる将、官吏たちも、「ここにいても才は発揮できない」と見切るや、さっさと仕官の先を変える。日本的な人材運用とは異なる点も多い。

 日本の戦国大名の中で、甲斐の武田信玄は褒めることで人を運用した。漢籍をよく学んだ信玄だが、彼なりに「情」を取り込んだ日本式経営にアレンジした。

 人事の基準は、手柄、働きであり、その評価に際して家柄、身分による区別を戒めた。

 その上で、最高の手柄に対しては、「そのほうの奮戦は、全軍一のあっぱれなものである」と褒める。部下を持たない下位の者が手柄を立てると、「そのほう一人の奮戦で本意を遂げることができた」と的確に指摘する。

 部下の働きのすみずみまで目を配って、報奨に“えこひいき”が無かったから、だれもがそれを励みに力戦奮闘した。

 信玄の褒め上手には、若い日のこんなエピソードもある。

 天文9年(1540年)、甲斐勢の信州進出の足がかりとなる海尻城に村上義清の兵が攻め寄せた。城内に敵方への内通者が出て、奮戦する本丸の籠城兵を残して落ちてしまった。

 若き信玄(当時は晴信)が救援に駆けつける途中、固く守城を命じていた武将の日向大和(ひなたやまと)が落ち延びてくるのに出くわす。馬から飛び降りて路傍にひれ伏した大和。

 「そこにいるのは大和か」

 「まことに面目ない次第。恥ずかしき限りでございます」

 馬鹿者!と一喝したく場面である。しかし晴信は、違った。

 「こういう場面では致し方ない。それより、よくここまで無事に逃れてきたな。余も満足だ」と語りかける。そして…

 「しかし、さぞ残念であろう。疲れてはいるだろうが、ただちに引き返して、きょうの先陣を頼む。わしの大馬印(おおうまじるし=大将旗)を預けるから、それを先頭に一功名を挙げてみせろ」

 「ははっ」と、感涙にむせんだ大和は勇んで城へ駆け戻る。さらに晴信は、側近を伝令にして追わせ、伝えた。

 「きょうの大和の軍勢は勇ましい。勝利は間違いない」

 海尻城の戦いがどうなったかは、言わずもがなである。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献

『甲陽軍鑑』吉田豊編訳 徳間書店
『名将言行録』岡谷繁実著 北小路健・中澤惠子訳 講談社学術文庫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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