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社長業

第44回 「人爵」と「天爵」

繁栄への着眼点 牟田太陽

※本コラムは2022年12月の繁栄への着眼点を掲載したものです。

 先日、呉にある堀江会計士事務所の70周年講演会にて講演をさせていただいた。

 実は10年前にここで講演させていただいたのが、私の講演デビューであった。一度お断りをしたのだが、「ウチも代替わりをするし、お客様の会社の多くもここ数年で代替わりをします。どうしても太陽さんでないとダメなんです」と先代の堀江先生から強く推されたのがキッカケだった。

 当日、250人の経営者の前で講演をした。初めてのことだ。受けたときは、出来るかどうかなんか分からなかった。しかし、自分自身が「必ず出来る」と思わなければ、何事も成功はしない。そうやって一歩先の仕事を掴んでいかなければ人間的成長もない。それがなければいまの私は無かった。機会を与えてくれた堀江先生には感謝しかない。その10年前の恩をお返しする気持ちで全力で話をした。

 講演会では、私の他に俳優のサヘル・ローズさんが講演をされた。

 ご自身の生い立ちを赤裸々に語られた。虐待を受けた経験、それに耐えかねて家を飛び出してホームレスをした経験、その時に暖かい手を差し伸べてくれた人たち。

 「人間、活躍したりお金が入ってくると寄ってくる人は大勢います。しかし、本当に何もない時に手を差し伸べてくれる人こそ大事な友達です」という言葉が刺さった。

 孟子の言葉の中に、「人爵」と「天爵」という言葉がある。

 取締役であったり、部長であったり、課長であったり、組織の中で通用する「与えられた肩書」のことを人爵という。与えられた肩書というものは、何かの失敗でまた簡単に取り上げられる可能性もある。

 それなのに組織の中にいるときは、人爵こそが絶対と思い込み、勘違いをする人が実に多い。肩書だけに拘ったりもする。だから、一旦その人爵を失ってしまえば、たちまち人は逃げて寄り付かないし、本人も憔悴してしまったりもする。人爵が価値基準になっているのだ。

 それに対して、天爵を持った人は、信義を守り、人間性豊かな、明徳のある人と孟子は言っている。なので肩書を失ったとしても少しも慌てる必要もない。

 人は往々にして肩書に惑わされ、人爵で人間を評価しがちであるが、人爵とは衣服のようなものである。その中に、身体が存在し、その身体の奥に心が存在する。衣服や肩書という一時の人爵よりも、中身である心や天爵は一生涯のものである。人から取り上げられることはない。

 「天爵を修めて、人爵がこれに従う」

 人爵を追うあまり、天爵を捨ててしまうのは愚の骨頂である。残念ながら、実社会の中ではそのような人が実に多い。目に見えるものより、目に見えないものの中にこそ真理は存在する。

※本コラムは2022年12月の繁栄への着眼点を掲載したものです。


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