新年度の事業計画に、DX(デジタルトランスフォーメーション)を盛り込む企業が増えています。
DXの初期段階の企業においては、まずはペーパーレス化を促進させて、業務効率を改善し生産性を向上させることを目標に掲げています。
その一方で、企業の経理部門の現場を見てみると、ペーパーレス化はそれほど思うようには進んでいないのが現状のようです。
そこで今回は、経理のペーパーレス化が進まない理由について、説明します。
御社の経理はペーパーレス化に取り組んでいますか?
■ベテランは紙の作業をやめられない
経理セミナーでペーパーレス化の事例を紹介すると、若手の経理社員は積極的に取り組もうとします。
スマホで育ったデジタル世代にとっては、時間と手間がかかる紙で仕事をするなんて無意味だからです。
それに対して、実務経験が長いベテランの経理社員ほど、これまでの紙書類を使った作業を継続したがります。
何年もかけて体で覚えた仕事のやり方は、そう簡単には手放せないようです。
中高年の世代ほどITが苦手というのも、その一因かもしれません。
ベテラン世代の時代は、会計帳簿や取引関係書類を紙で保存することが、法律で義務付けられていました。
それが今では電子帳簿保存法により、紙媒体ではなく、効率的な電子データでの保存が認められるように変わっています。
ベテラン経理が慣れているからという理由で、紙での処理を続けるとしたら、会社はいつまで経っても非効率的な仕事を続けることになるでしょう。
経理を中心とした書類のペーパーレス化については、ベテランの経理社員の意識改革が必要かもしれません。
経理のペーパーレス化を邪魔しているのは誰ですか?
■ハンコを押すのが仕事
ペーパーレス化できない2つ目の理由が、ハンコです。
ハンコは日本独自の文化で、役所の手続きや商慣習として定着してきました。
社内の書類手続きについては、担当社員の日付印の横に上司の承認印がないと作業が進まないという会社が一般的です。
商取引においても、社判が押印された請求書や領収書だけしか正規のものとして取り扱われないと思っている管理職もいます。
形式的な承認印を押すのが、毎日の仕事になっている管理職も少なくありません。
経理部門の新入社員教育の中にも、ハンコの押し方があります。
上司に対してお辞儀をしているように斜めに押印するハンコのマナーまで、指導している会社も珍しくありません。
しかし、コロナ禍で日本のハンコ文化の象徴である役所においても、ハンコの廃止が実施されたのはご存知の通りです。
すでに2021年から、税務署へ提出する申告書や申請書、届出書についてはハンコが不要になっていて、押印する欄がなくなっています。
それなのに、古い体質の企業では、現在でも書類にハンコを押し続けています。
社長が、トップダウンでハンコの廃止を決めなければ、管理職や社員はハンコを使い続けることでしょう。
社内からハンコ文化がなくならない限り、ペーパーレス化は不可能です。
社内で古いお役所仕事をいつまで続けますか?
■IT化投資にお金がかかる
ペーパーレス化が進まない3つ目の理由が、IT投資にお金がかかることです。
経理関係の書類について、ペーパーレス化する場合には、電子帳簿保存法の要件を満たしたシステムを導入する必要があります。
現在使っている会計ソフトのデータをパソコンに保存しておくだけであれば、追加のコストはかかりません。
それだけではなく、紙で受け取った請求書や領収書等の書類についてもペーパーレス化を進める場合には、スキャナや画像データを管理するシステムが必要になります。
また、PDF形式で送られてきた請求書等についても、電子取引データとして保存する必要があります。
新しい機能やシステムを利用する場合には、ハードウェアやソフトウェアが必要になります。
会計ソフトに連携する様々なサービスが提供されていますので、ぜひ利用を検討してみてください。
中小企業でも利用可能なリーズナブルな価格のクラウドサービスなどが提供されていますので、初期投資をかけなくても導入できます。
経理に指示して、IT導入補助金の申請も忘れずにしておきましょう。
経理部門は、他部門に対してコスト削減を提言している手前、経理業務に対するITの追加予算の申請を遠慮しているケースがよく見られます。
経理社員が紙とハンコを使って事務処理を続けて、その分にかかる人件費を考えれば、IT投資の費用はすぐに元が取れます。
ですので、経理部門はペーパーレス化によって効率改善される経理事務の削減効果と、IT投資予算の金額を比較して、費用対効果を検討してみてください。
今年度の経理部門のIT投資予算はいくらですか?
■ペーパーレス化しないと生産性は上がらない
今回は、経理のペーパーレス化が進まない理由について、説明しました。
ポイントは次の3つです。
・ベテラン経理が紙を手放さない
・社内のハンコ文化をやめられない
・経理にIT投資をしていない
日本は他の先進国と比べて、ホワイトカラーの生産性が低いと言われています。
その原因が、紙とハンコです。
経理部門の生産性を上げるためには、ペーパーレス化が絶対条件なのです。
社長としては、社内の紙とハンコの文化を撤廃して、ペーパーレス化を前に進めていきましょう。
紙書類を読む時間と電子画面を見る時間、どっちが長いですか?