しかし、私は相変わらず中国経済楽観論者である。12月9日に都内で開かれた中国ビジネスフォーラム(代表:沈才彬多摩大学教授)第4回講演会において、筆者は「【巨艦】中国の次の一手―2012年中国経済はこうなる」を題とする講演の中で、次のように述べている。
「2012年に中国経済崩壊のシナリオはなく、経済成長の減速はあっても、失速(6%以下)の懸念はほとんどない」と。
この私の発言の根拠は何か?根拠は2012年中国経済を読むキーワード、「安定確保」と「成長確保」という「2つの確保」にある。
来年秋、第18回中国共産党全国代表大会が開かれ、胡錦濤体制から習近平体制への移行が予定される。党代表大会を成功裏に開催し、政権交代をスムーズに行うことは、来年中国の最大の課題である。そのため、政治の安定と経済の成長を確保することは至上命令と言っても過言ではない。
実は、これまでの経験則によれば、党大会開催の年はほとんど経済成長率が前年より上昇している。筆者が調べたところ、1980年代以降、5年に一度の党代表大会は6回も開催されたが、そのうちの5回(1982年、1987年、1992年、2002年、2007年)は開催の年に成長率が上昇している。唯一の例外は第15回党大会の1997年で、アジア通貨危機の発生によって、成長率は前年より若干下落した。それでも依然として7.8%という世界トップクラスの成長率をキープしている。
なぜ、党大会開催の年に成長率が下がるのではなく、上がるのか?中国は共産党一党支配の国だ。5年に一度の党大会はビッグイベントであり、政権交代がスムーズに行われるためには、政治の安定と経済成長は必須条件となる。従って、「安定確保」と「成長確保」は歴回党大会開催の年の最大の課題となっている。この「2つの確保」はまさに2012年中国経済を読むキーワードである。
それでは、2012年の中国経済はどんな展開が予想されるか?次の3つのシナリオが考えられる。
シナリオ①
ユーロ危機が沈静化し、国内住宅バブル崩壊の懸念も後退する場合、9%成長。
ユーロ危機が継続し、国内住宅価格が下落する場合、8%台
ユーロ危機が世界に拡散し、イラン戦争も勃発、国内住宅価格が暴落する場合、7%前後
筆者は、シナリオ②の確率は一番高く、8%台の成長が可能と見ている。たとえシナリオ③の場合でも、中国経済崩壊の可能性はないと思う。中国は内需拡大など景気刺激の手段を多く持っているからだ。
2012年、実行可能な具体的な景気振興策は次の6つが挙げられる。
(1)新たな成長センターの育成 中国政府は潤沢な財政予算を活用し、インフラ整備を中心に中西部投資に傾斜し、新たな成長センターを育成する。
(2)2015年まで国民所得倍増計画の実施。
(3)分配重視と所得格差の是正 具体的には都市部で最低賃金制度を導入し、農村部では貧困層支援策を拡大する。これまで農村部貧困層の定義は1人当たり年間純収入1196元以下だったが、最近、2300元以下と再定義した。これによって、約1億人の農民たちは恩恵を受けることになる。
(4)2011年は個人所得税減税を実施し、6500万人は減税の恩恵を受けた。2012年は企業の法人税の軽減が検討される見通しである。
(5)金融政策の転換 金融引き締めから金融緩和へ転換される。
(6)「1人子政策」の見直し 一人子同士が結婚する場合、2人の子供の出産が認められる。
これらの対策はいずれも内需振興策で、消費拡大に繋がる手段である。来年、たとえ最悪のシナリオ③、つまりユーロ危機拡大、イラン戦争勃発、国内住宅価格暴落など悪材料が同時に発生したとしても、上記手段を取ることがまったく可能であるので、中国経済は崩壊も失速(6%以下)もしないだろう。
イギリス元首相のトニー・ブレア氏は在任中、当時の朱鎔基中国首相と会談した際、次のように述べたことがある。
「私は毎日の新聞を読む時間が5分程度だ。マスコミは問題ばかり喧伝しているので、多く読むと自信喪失にもなる」と。